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2025年05月09日

【カミマイ6】湯上りの蜜

走り抜けろ上舞!…じゃない、カミマイ!…ということで
元ネタを知らない方も大歓迎の更新です

二人はどうなるのでしょうか…!?

★★★

水堂とらくファン作品・空の民草の民シリーズより


幻想水滸伝2【カミマイ】妄想6

カミュー×マイクロトフ

湯上りの蜜




ロックアックスでの風呂と言えば、サウナが常識だ

蒸気で全身を温めて血行の促進を促し、身体の内外を同時に整える

個人の邸宅にはそれほど大掛かりなものはないが、街には男性専用の大衆浴場が幾つか点在するほど市民にとってはメジャーな代物で、騎士団内でも各部署に詰める騎士専用の大浴場が備わっていた

特にマチルダ騎士団で最大の団員数を誇る青騎士団の詰め所では、入れ替わり立ち替わり、芋洗い状態で騎士たちが汗を流す光景も珍しくない

もし仮にマチルダ騎士団をスポーツが盛んな学園に例えるならば

青騎士団は体育会系の部員たち

赤騎士はそれ以外の学術的、芸術的、工学的な趣味が犇めく文科系

白騎士は彼らを取り仕切る執行部

…という具合になるだろう


市民の間で騎士団の色の違いと役割については漠然としか把握されていないが、かなり細部まで各々の長短に見合う役割が決められていた


そしてその運動部の猛者たちで溢れかえるイメージのある青騎士団は、団長であるマイクロトフを中心に、やはり体育会系のノリで結束をしていた

水を被った熱された石から水蒸気が勢いよく立ちのぼり、湯気が彼らの体全体を覆う大きな浴場で、団長を中心に、男同士、裸での打ち合わせに余念がなかった

本来であれば政務室の長い机の前で点呼を行ってから確認作業行うのだが、演習から帰った者や砦の任から帰還した者の慰労を兼ねて、ここで報告会を開きたいというマイクロトフ立っての望みを聞き入れた形になる

青騎士団ではそれが半ば慣例化していたので、全員が長いタオルを腰に巻いた上半身裸の恰好で、上下の別なくマイクロトフを囲むように、突き出した岩のようなものを椅子に見立てて腰掛けている

所謂裸の付き合いで、酒が絡まない分、蒸し暑さに耐性があれば誰もが快適に議事を進められる環境だった

無論、その間も夜の勤務を終えた担当騎士がサウナに出入りを繰り返す

水分の補給をしかと各自で確保させ、マイクロトフは居並ぶ部下たちの話に耳を傾けた

錚々たる青騎士団のメンバーが集う中、肌の色も髪の色も、もちろん体型は疎か筋肉のつき具合、バランスまで、見事に皆バラバラだ

マイクロトフだけが飛び抜けて色が白いというわけではないし、癖のある毛髪の黒髪の騎士もいる

茶系でも赤の騎士団長ほど明るい色の頭髪はないが、焦げた茶色や赤土色、グレーからアッシュ、白まで様々だ

一様に短く髪の裾を切り、清潔感が保たれている

爽やかなロックアックスの若者らしい佇まいだった

先代を補佐した青騎士団の執行部は、解散した後は後輩の育成に尽力している

若い世代が多く、年長であってもマイクロトフより八つか九つ上がいるくらいだ

騎士となり、十年も経てば進退の都合によっては騎士を辞めたり、騎士学校で責任ある立場を任される

マチルダ騎士団では白騎士以外はかなり引退時期が早い

若い力を重要視して世代交代を早めている理由は、マチルダ騎士団の上層部が手駒として扱いやすいと考えているからだろう

戦闘が必要な場面では元騎士も駆り出されるので、実質、騎士団を退いても忠誠は常にマチルダに在る、帰属する、ということになる

それでもマチルダの騎士たちが、夢や希望に満ち溢れている若者たちであることに間違いはない

マイクロトフが団長の任を引き継いだのは確かに若い時分だったが、歴代の騎士団長の中で最年少というわけではない

しっかりと後任を任せられるだけの器に仕上げたいとの前団長の意向の下、マイクロトフは青騎士団の各部隊を隅々まで回らされた経緯がある

どこで誰が何を担うのか、実地で事細かに教えられ、覚えさせられた

並大抵の根性と努力の積み重ねなくしては、大抵の者は途中で根を上げる

白騎士や赤騎士がキャリアだというのなら、青騎士は現場で叩き上げられた精鋭揃いだ

それを束ねる者は、更に並大抵の努力では事足りない

青騎士団が多くの人員を有し、しかも中身は体育会系だと囁かれる理由はそんなところにあった


「報告は以上です」


秘密裏に行った業務ではなかったので、同じ青騎士に聞かれても問題はない

ご苦労、とねぎらい、マイクロトフは会の解散を宣言した

机上で立ったまま行うよりは、他の騎士たちも幾分リラックスできる

そう考えたからこそ風呂場での開催を提案したのだが、マイクロトフ自身も話をしているうちに十分に体も温まり、あとは冷たい水を頭から被って出て行けば済むところだった

肌の上に無数の玉となって浮かんだ水滴を拭い、身につけた長布を解くと誰もが見惚れる見事な裸身が露になった

脱衣所で元の騎士服に着替え、残り時間で他の政務に当たることを決める

蒸気を満たした室内から散っていく団員たちは、これから休暇に就く者、担当部署に戻る者、口頭以外の報告書と向かい合う者、書類と再びにらみ合う者、様々だ

マイクロトフは頭に叩き込んだ諸々の報告内容を上層部に提出する用紙に書き起こすため、おのれの執務室に戻ろうと決心した




大浴場を出て、庭を突っ切り上への階段を目指そうとして、見知った影を見咎める


カミューだ


何をしているのかと思ったが、大方いつも通りの散策だろう

一応、体面としては別部署の管轄内ではあるのだが


赤騎士の仕事は自分のように机にかじりつくか、対外的なものが多い

白騎士の代わりに社交の場に駆り出されて騎士団代表の代理としての役目を果たしたり、簡易な挨拶や懇談など、町議会に召集されたり、婦人たちの社交の場に呼び出されたり、裁判の担当をしたり、揉め事の解決に奔走したり、色々だ

肉体労働よりも社会的な細かな任に当たることが多いので、マイクロトフから見れば非常に苦手で厄介な役どころだし、覚えることも実際に多いと聞いている

それなりの地位にある人物の顔と名前と役職と家柄と家族と歴史を個別に記憶し、それぞれに当てはまる様式、仕様、仕来り、手法、嗜好をすべて頭に入れた上で交流し、友好を結び、時に駆け引きを交えて辞令を実行し、成果を上げなければならない部署だ

年末や年始の挨拶に出向いたり招待される数と量が、青騎士団長であるマイクロトフの比ではなかったことからも容易に推測できる

加えて、その体一つで騎士団と他の場とのパイプ役を努めねばならない

精神的にすり減るので、天才的な手腕か、天性の資質がないとやっていけないと見習だった頃に同期だった赤騎士から耳にしたことがある

同じ騎士でも、青騎士の方が段違いでわかりやすい職務に就いていることをマイクロトフは理解している

例え、前線で働き続けるための肉体的疲労が青騎士たちには常に付随していたとしても



ここまで声が聞こえてきたよ、と男は言った


大声を張り上げたつもりはない、とマイクロトフは返した


カミューという名前を持つ赤騎士団長は、意外と張りのある良い美声だと友人を褒め称えた

お世辞と思えなくもなかったが、今度からは声量を抑えるようにする、とマイクロトフは顰めっ面で答えるにとどめた

次いで、先日は手間をかけた、と言葉を継ぐ

何のことを指しているのか、カミューはすぐには思い至らなかったようだ


意識を失った自分をソファまで運んでくれたのだろう?


そう水を差し向けると、ああ、と合点したような声がその口元から漏れた

カミューは笑みを絶やさないままでいる

それほど、風呂場から聞こえた歓談の中身が面白かったのだろうか


気にしなくていい、と、いつもならばそう返したのかもしれない

いつもの親友であれば


礼をもらっていないな、とカミューは笑った

その瞳には不敵な光が見え隠れする


陽光に透けてベージュ色をしたブロンドのように輝く髪と同じ、それよりも少し濃い色調の品の良い睫毛が揺れる

礼などない、と言いかけて、カミューがゆっくりと前進してくるのをマイクロトフは肌で知覚した


一歩一歩、歩を進める者を相手に逃げる行為など愚の骨頂だし、突き飛ばすのも同じ団長としてやっていいことではない

近づいてきたところで戦場の敵ではないのだし、ここは戦場ではないのだし、無害だろうとは確信していたが、相手が何を考えているのかまでは見透かすことができなかった


何も考えていない

そう答を弾き出し、ただ正面から対峙したまま、待つ


カミューの手袋に包まれた指が、額にかかる短い前髪を払うように触れ、離れた


「………?」


まだ濡れていたのだろう

確かに適当にしか水分を拭っていなかったが、カミューの白い愛用の手袋を湿らせるほど毛先に集まり、滴るほどではなかったものの透明な雫が生まれていたのだと気がついた

そのまま手は体の横脇には戻らず、カミューは水の香りを楽しむように鼻先でそれを探る優美な仕草をした

瞼を浅く伏せ、意味ありげにつぶやいた


夜の匂いがする


時刻的に、そんなものが来るにはまだ数刻を要する

耳に届いた感想に、詩的なのかそれ以外の意味合いがあるのかを判断しかね、風邪を引く前に戻る、と断ってからマイクロトフは友人に背を向けた



なぜかはわからない


触れていないはずなのに、額が炎を掠めた時のように熱い


そんな気がした



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2025年05月08日

【カミマイ5】遠き誓い

カミマイは2003年ぶりの更新となるのですが
空の民草の民シリーズを完結させるべく
かなり速足で駆け抜けます

二人がゴールインするまで…!

★★★

水堂とらくファン作品・空の民草の民シリーズより


幻想水滸伝2【カミマイ】妄想5

カミュー×マイクロトフ

遠き誓い




愛している、と男は言った


昔からよく知る、親友の顔で

その表面には苦しそうな影が見てとれ、騎士団が誇る玲瓏たる美丈夫の、涼しげな目元はなりを潜めていた


隠すことのできない激情を、烈火の如き本性を、友である自身は知っている

それが男の持つ、雄々しく強大な、羽ばたける真の自由、翼であることも


外面などどうでもいい

本当の姿を、本心を、おまえにだけは見せられる

そして告げたい

嘘偽りのない姿で


物言わぬ口が、眼が、真っ直ぐに自身に向かい、目を瞑っても瞼を灼いて射抜いてくる


わかっている、とすぐさま思いが喉まで出かけた


その苦渋とも苦悶ともつかぬ秀貌を前にして、理性がたじろぐことはなかった


よく知っている

よく見えている

その心も、面差しも、そして相手が見ている景色も目指すものも

あれだけ飽くことなく共に語らい、作り上げた時間がある

かけがえのないもの

何にも代え難い、代えてはならない刻そのもの



わかっている、と自分は答えた

だが、それ以上言葉が続かない

俺も、とは言い出せない

愛よりも、今は、もっと



大事の前に、自分たちには、少なくとも自身には、完璧に果たさねばならない役目がある

重責が

自らが好んで背負った責務

マチルダの現状と未来

人々の顔

故郷に根ざした志を、明確なこの想いと両天秤にかけることはできなかった



目の前の男は笑っている

口元だけを器用に歪めて

哀しげではなく、自嘲がそこに浮かんでいるかのように


手をこまねいているうちに、どこかへ行ってしまうよ、と訴えているようでもある


ならば、俺は孤独を選ぶ

そう答える前に、利き腕を伸ばされ、相手の長い指が手袋越しに口元に当てられた


使い慣れた、しかし清潔な香りが鼻腔を過ぎる


それを許すと思うのかと


唇の動きだけで、男は無言のまま告げた





ハッと意識が目覚めた瞬間、ひどく汗をかいていたと思う


団長服の上着をかけられ、ソファの上に仰臥していたようだ


机の上で意識を失っていたよ、と少年の声が聞こえる


ああ、と片言で返事をする


外にいた騎士の一人が気づいてここに寝かせてくれたのか

少年の姿の彼には、成人男子でその上重い騎士服を着込んだ体を運ぶことなどできないだろうから、誰かを呼んで手助けを請うたのかもしれない

カミューの容姿や声は自分以外には感知できないもののようだが、他者の意識にささやきかける作用はあるようだ

気のせいか?、と思われることを、見えない者が誰に命じられたわけでもなく自然とやってのけるというか

カミューの存在というのは不思議なことだが、悪霊でも幽霊でもない、空気や風に近いものであるのかもしれなかった


「…手間をかけた」


もう大丈夫だと、それほど長くないと思った休眠が完了したとの旨を簡潔に伝えると、カミューは神妙な面持ちでこちらを見た

マイクロトフ、と名を呼び、少し遅れてから、大分魘されていたよと告げた


それに対して端的な応答を返す

悪夢のような正夢のような世界から完全に自我を切り離し、すでに平素の自分に戻っている

覚醒後のコンディションを意識的に整える作業ができることは、指揮官にとって不可欠な要素だ

いつまでも、部下たちの前で疲労困憊であってはならない


「大事ない、心配をするな」


ロックアックスで士官学校を受験した頃よりも前の背格好なのだろう

マイクロトフの知っている昔のカミューよりもわずかに背の低い少年は、じっとこちらを凝視したままだ


何かを言いたげであることを察し、どうした、と穏やかに促す

自分はこの少年に気を許しているのだということを、しっかりと自覚しながら


「おまえをここへ寝かせたのは、私だよ」


赤い騎士服の方の


「……………」


咄嗟に言葉が出てこなかった

しかし一方で、やはり、という自意識がある

おそらくまた男の気まぐれで、青の騎士団長が詰める執務室に乗り込んできただけなのだろうが


小さき友であるこのカミューがわざわざ大人の方のカミューに働きかけたとの想像はしづらい

ただでさえ愛する弟を独り占めにされているのだから、同じカミューであるとはいえ、もう一人の自分に塩を送る真似はしないだろう

親友をソファに運ぶだけの行為が、果たして何の得になるのかは甚だ疑問だが


空気が違うのだ

あちらのカミューが訪れると

今目の前にいる少年は陽光を一身に浴びた葉と風の匂いがする

けれど親友の場合はその居場所に、どこか甘美で、そしてそれに劣らぬ整然とした、寂寥たる沙漠の香りが残る

人当たりの良い柔らかな笑みの裏、ひどく困難な場所に隠された、誇り高き民としての矜持が空気を変える

誰も気づかぬことであったろうが、自分には彼という存在の持つ、本当の魂の在り方がわかる

色がわかる

世界を感じる


そうか、と、乾いたような声を発して、マイクロトフはかすかにその表を俯けた





「愛しているんだよ、マイクロトフ」


少年の姿のカミューは言った


主語はなかった

一人称はなかった



夢の中同様に、マイクロトフは即座には答えられなかった

あるいは、あれは夢などではない、現実の出来事であったのかもしれない

実際にカミューは、ここに来て、ここで告げたのかもしれない

独白のような告白を



わかっている

わかっていた

おそらくすべて、自分は知っている

その内情、劣情、過剰とも思しき火のさがを

自分など足元に及ばぬほどの高潔な魂の道筋も何もかも



だが、今は



今では駄目なのだと




呼吸が詰まる苦しさを感じながら、口中で真理が出口を求めて彷徨った



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2025年05月07日

【カミマイ4】カミューの大事な小さな弟

本日腱鞘炎の通院日でしたが
あまりぱっとしない感じで、症状の進展はあまりあるようでないような
(引かない腱鞘炎の(腱の炎症の)状態が悪化することもあるとのことなので)
担当された方には本当に毎度ご迷惑をおかけします

ホルモンが影響することもあるとのことで
内在的なものが要因になるとのお話も

季節的なものでもホルモンのバランスが崩れるので
良くなっても再発することが多いとかそうでもないとかで
ドケルバン病は個人差が極めて出る病気のようです

頭が痛くなるぅ…!

ということで、
完治の日は…現段階では未定です…!!!


そして一気にゴールインまで書き上げたい気持ちにとらわれながらの
十数年ぶりのカミマイ更新の続きです…!

★★★

水堂とらくファン作品・空の民草の民シリーズより


幻想水滸伝2【カミマイ】妄想4

カミュー×マイクロトフ

カミューの大事な小さな弟




カミューには小さな弟がいるらしい

その弟が赤騎士団長室に入り浸り、あろうことか帰って来ないのだと言う


カミューが語る話の中身は、マイクロトフの硬い脳味噌では何ひとつ理解することができなかった

わからん、と一言口にして匙を投げてしまえばすぐに片がつくところだが、親友であるはずのあの男の下に兄弟などいただろうかと思い直し、僅かに首を傾げる

マイクロトフは記憶力が良い方であるとは言えなかったが、カミューが話したことのある内容についてはしっかりと覚えている自信があった

特に家族構成については、対人の場面で相手の人となりを知る上で不可欠な要素だと感じている

カミュー以外でも、家族の面々を知ることは人付き合いで最も重要なことだと考えていた

どんな素地があって目の前の人物が育成、形成されたのか、ある種の考えの基となるからだ


大事な下の弟に関して、カミューは多くを語らなかった

とにかく無心で心を削るほど大切な者であるらしい

溺愛しているらしき素振りは、団長であるカミューへの嫉妬にも似た感情からも明らかだった


同じカミューなのにな


そう思うと、マイクロトフは就業中であるというのに不謹慎だとは自覚しつつも、少し笑いたい衝動に襲われた


「笑い事じゃないんだよ、マイクロトフ」


正直に表面に出てしまった感情を見咎められ、年下のなりをしている親友から真剣な眼差しで注意を受ける


「す、すまん」


反射的に謝ってしまったが、それにしても奇妙だなと思わずにはいられない

今以てマイクロトフの頭の中を占めているのは、カミューには確か、弟はいなかったという事実だ

カミューの故郷には、上には兄が、下には妹が一人ずついるだけのはずだ

寄宿舎暮らしをしていた時分に、本人の口から直接聞いた思い出がマイクロトフの中にある

異郷から来た親友だからこそ、時間を惜しんでかつては色々な話をしたものだ


「…弟のようなものだよ」


曖昧な断定に、更に首を横に傾ける


今日割り当てられた仕事は、カミューの手伝いがあって思いの外早く切り上げられた

普段ならば終わった途端即座に部屋を出て、青騎士たちが詰めている政務室へ移動して手伝えることがあれば助力を惜しまず、なければ外の見回りに飛び出しているところだが

珍しく話し込んでいることに自分でも気づいていたが、特段わるい気はしなかった

そもそも提出された大量の報告書の確認作業を短時間で終えられたのは、眼前の少年のおかげなのだから


「…ということは、カミューとは血が繋がっていないのだな?」


カミューは否定をしなかったので、恐らくそうなのだろう


とにかく一刻も早くうちへ連れて帰りたかったらしいが、相手はいやだと言い張っているらしい


「面と向かって言われたわけではないけどね…」


カミューらしくもなく、言葉を濁す


聞けば聞くほどよくわからない


この場合、年齢こそ違えど同名且つそっくりな人物がこの世界に二人同時に存在しているということ自体、わからない方がいいのかもしれない

深入りしていいものかとふと考えたが、困っている者を助けないというのも騎士の恥ではある

カミューはマイクロトフに尽力を求めてはいないが、事情を話してくれたことはマイクロトフにとって喜ばしくない事実ではなかった

親愛を感じていると言えば奇妙な心地にとらわれるが、年下の者の相談に乗ってやれなくて何が騎士なのかと思うからだ

そんなことを考えつつ、マイクロトフは気負いなく言い継いだ


「ほとぼりが冷めるまで、待ってやるというわけか…」


カミューが故郷の人間としては珍しくないほど家族思いであることは熟知している

自分のように幼い頃から実の両親と離れて暮らしていたわけではないし、一家の次長として責任感が殊の外強いことも知っている

家長である兄を立て、妹の面倒を看つつ、遠くで働く父親の代わりに母を支える

そのために立身の口を求めて、わざわざ遠いグラスランドの地からカミューはマチルダ騎士団領まで単身でやって来たのだ

そのカミューを手こずらせ、しかも深い愛情を持って接している対象であるのだとすれば、尚更踏ん切りがつかなくなるのも無理はない

どうしても今はいやだと言うのなら、仕方のないことなのだろう

言動の中には、無理強いをして嫌われたくはないらしいカミューの本音が見え隠れしているようだった

そしてその相手にも、自分の無様な姿を見せたくないのだと言う

今の赤騎士団長であるカミューも同じことを言うだろう、とマイクロトフは思った


「こちらとしても、余裕を見せなければいけないからね」


カミューの言に、大変だな、とマイクロトフは内心で苦笑を漏らした

体面上、どうあっても本心を好いた相手に見せるわけにはいかないらしい

溺愛するほどの存在がいないマイクロトフには半分しかその気持ちを理解することはできないが、男としての意地があるのだということはよくわかった


「それにしても、頑固なのだな」


カミューの弟は


マイクロトフの感想に、それはおまえのことだよ、とカミューは胸中で嘯いた


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2025年05月06日

【カミマイ3】少年カミューとの出逢い

ということで、二人の出逢い編

★★★

水堂とらくファン作品・空の民草の民シリーズより


幻想水滸伝2【カミマイ】妄想3

カミュー×マイクロトフ

少年カミューとの出逢い




初めてマイクロトフが少年の姿をしたカミューと対面したのはいつだったのか、とうに忘れた


始めは、子どもの幽霊か妖の類と思い、取り立てて気にはしなかった

彼が育ったロックアックスでも昔話やおとぎ話の内容には事欠かない

生憎それらの知識を幼年期に摂取しなかったマイクロトフは、そんな言い伝えもあるのか、という程度の感慨しか念頭になかった

この歳になって怯えることなどないし、遭遇したところで肝を冷やすような繊細さも持ち合わせてはいなかった

マイクロトフが気がつきながら見て見ぬ振りをしていた理由のひとつには、何かを探しているかのように、その人物が館内の廊下を通り過ぎるだけだったことも挙げられた


とはいえ、すれ違うだけとはいえさすがに管轄の騎士団が務める部署の最高責任者だったマイクロトフは、警備に当たる騎士たちにその場で異常はないかどうかを何度も確認した

しかし部下たちの口からは、平常通りです、の一言しか常に聞こえてこない

マイクロトフの背後では、カミューによく似た少年が探すような素振りで周囲を窺い続けているにも関わらず


どうやら自分にしか見えていないのだな、と悟った超現実主義であるマイクロトフは、実害がないのならば放っておくとの自身の方針の下、カミューに似た存在を意識の外へ追いやるよう努力した

けれど数日経ったある日、軽いため息を吐きながら執務室にやって来て、そこにあるソファの上に当たり前のように腰掛けた少年に、思わず声をかけてしまった

それほど、不意の来訪者が落胆した様子だったからだ


「失せ物は見つからなかったのか…?」


カミューに似た少年は、わずかに憔悴したような顔つきだったが、声色には変化がなかった

私よりもあちらが好もしいらしい、と、大人びた口調が返る


こちらからの呼びかけには、反応を示すらしい

しかし他の者には姿形は疎か、声も音も聞こえないようだ

マイクロトフの中では常識的に幽霊を相手に深入りしていいという道理はなかったのだが、返答の内容を聞いてさすがに心配になった

カミューとはいえ、まだ子どもなのだ


「…恋煩いか何かは部外者である俺にはわからないが、あまり無理をするな」


そう言って慰めると、ありがとう、マイクロトフ、と『カミュー』は言った


その日からカミューは探し物をやめ、マイクロトフがひとりで詰める執務室に顔を出すようになった




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【カミマイ2】前を征く意義

なぜか続くシリーズ…!

★★★

水堂とらくファン作品・空の民草の民シリーズより


幻想水滸伝2【カミマイ】妄想2

カミュー×マイクロトフ

前を征く意義




難しい本を読んでいるな、と言われ、言葉をかけられた当人は是とも否とも答えなかった


「そう言うマイクロトフは、ここにある書籍を全部読破し終えているんだろう?」


団長の任に就いてから勤務時間外に読み漁ったそうだが、辞書を片手に、先代の補佐役の何人かに手伝ってもらいつつ内容を確認しながら懸命に読み進めたらしい


「読みはしたが、覚えている内容は大凡だ」


隅々まで熟知しているわけではない、と手にした紙面を見ながら丁寧に答える


重要な部分だけを掻い摘んで覚えているというのは謙遜ではない事実なのだろう

どこに何が書かれているのかを把握していれば大体の調べ物はできると


ふむ、と、明るい茶頭の少年は、青年の言に素直に納得した


「では、私はこいつらの全てを頭に叩き込むことにしよう」


聞くなり、執務机に座っている部屋の主であるマイクロトフはあからさまに閉口したが、しばらくの間思案したのちに、おまえならやれるだろう、と大様に頷いた

カミューならば、と付け加えて再び手元の報告書に目を通す


「俺も負けず嫌いだが…」


カミューも相当だな、とペンを走らせながら男は言った


「それは、当然」


成人男子より年齢的にも肉体的にも見劣りをする背格好の少年は、異国譲りの大人びた面差しで平然と答えた


執務室に設えられたソファの上に腰掛けて分厚い書物をパラパラとめくる『カミュー』が言うには、自らは常にマイクロトフの一歩前を進んでいなければならないらしい

烈しい対抗心を抱くのも、マイクロトフに限ってだ、と説く


「要するに、俺だけが成長することが気に食わないということか?」


いや、とカミューは即座にマイクロトフの見解を否定した

誤解されたくない、と感じたからだ

少なくとも、目の前の友人にだけは


「マイクロトフは自分でできると過信して、何でも背負い込んでしまう傾向にあるだろう?」


だからそれを的確に手助けすることのできる手腕と知識と知見と、あらゆる手管が自分には常に必要であるのだと

だからマイクロトフより勝る頭脳、見識、剣の腕、技量、人脈の何もかもが不可欠であると

マイクロトフをライバル視している理由には、そのおかげでカミュー自身も成長できることは事実だが最終的な目的はそこにあるということを正直に明かした

決して、嫌っているからマイクロトフの目の前に壁となって立ち塞がろうとしているわけではないと


「マイクロトフの力になれなければ、それ以上の存在でなければ、私には意味がないんだよ」


「…………」


カミュー…、とマイクロトフは思わず名を呼んでいた

しかしその先は続かず、紙面の上に音もなく目線を落とす


「無理に言葉にしなくていいよ、マイクロトフ」


倦怠期というわけではなかったが、騎士になってからというもの、カミューとマイクロトフの間では親密な交流というものが絶えて久しい

憎まれ口を叩くのも、取り付く島がないことも、対応がおざなりになってしまうのも、マイクロトフが青の騎士団を代表する立場になったためだ

この領内では騎士団それぞれに役割が決められ、相互扶助ではなく上から下へ厳しい統制が敷かれている以上、易々とその垣根を超えてはならない

赤騎士団長であるカミューは勝手知ったる何とやらで軽い足取りで堂々と青騎士団が詰める部署に足を踏み入れるが、その逆はあってはならない

そして会話も、簡潔かつ速やかに行わなければならない

ここは子どもらが集うお遊戯の場ではないのだから


「…俺は随分カミューにつらく当たっていると自覚しているが…」


士官学校時代からの親しい間柄であるはずなのに

申し訳ないを通り越して、もはや達観しつつある、と言外に含ませ、マイクロトフは彼らしくもなく押し黙った


「今くらいの塩対応で十分だと思うけど?」


下手に出て馴れ合えば付け上がらせるだけだ、と我がことであるのにカミューはきっぱりと言い切った

それにはさすがにマイクロトフと言えど、大人のカミューに同情したくなった

しかし、白騎士団の上層部への牽制の意味もあるのだし、異なる騎士団の代表者同士が仲良しこよしをアピールする必要はない

少なくとも、奴らの眼が届く範囲では


独白のようなカミューの言葉に、マイクロトフはゆっくりと頷いた


「…そうだな」


上司の目を盗んで密会をしようにも、マイクロトフはそんなことが出来る器量ではないしね、とにべもなくカミューは放言する

視線は本の中身を食い入るように見つめているが、考えていることはまた別なのだろう

器用で聡く、昔から向学心と独立心が強い

負けん気もあり、保身など顧みず、心底からは誰にも媚びない

このカミューを見ていても、良質の強い革で作られた、しなる鞭のようだとマイクロトフはつくづく思う

簡単には手折れず、手のひらに一見馴染むと見せかけて、鞭の扱いは誤れば使い手の全身をも容易に傷つける

見た目以上に非常に危険で厄介な代物なのだが、味方であれば心強い

自分などよりもよっぽど処世術を心得ているので人当たりもいいし、誰に対しても社交的なので文句のつけようがないだろう


言っている中身は辛辣であったが、実際に事実なのだろうな、とマイクロトフは珍しくその口元に苦笑を浮かべた


「…やはりおまえはカミューなのだな」


口中で小さく呟き、青の騎士団長は再び政務に没頭した




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2025年05月05日

【カミマイ1】5分の永遠

ということで、突発的にカミマイの続きを書いてみました…!^^;

★★★

水堂とらくファン作品・空の民草の民シリーズより


幻想水滸伝2【カミマイ】妄想1

カミュー×マイクロトフ


5 minutes




「マイクロトフ」


端的に名を呼ばれるのを遠のきかける意識の隅で捉え、黒い頭の青年は力を振り絞って何とか返事をした

それに呆れた風もなく、書類が皺になる、と客観的且つ嘘偽りのない真実が飛ぶ

確かにこのまま意識を手放したら、彼の言う通りの事態に陥るだろう

わかっていると了解の意味で頷いてみたが、自身が思っている以上にのろのろとした動作だった


「いっそのこと、横になったらどうだ」


問いではなく、強く促すような声音に、ああ、と男は素直に応じた


体が仮眠を必要としていることは、指摘されるまでもなく自覚があった

外の者に人寄せをしないように言ってくる、と断って、青年の顔を覗き込んでいた少し背の低い影が素早く身を翻した


そんなことをしたら

そんなことをしたら、おまえの存在が部下にばれてしまう


…と言いかけて、自分以外の誰にも見えないのだったか、と朦朧とした意識の中で思い改める

なぜそんな確信があるのかはわからない

けれど指摘に促されるまま、青い騎士団長服の若者は、執務室の壁にあるクローゼットに併設された長椅子にその長身を凭れさせた

緩慢な動作で背中からスプリングの真上に沈むと、すぐに寝息が整った鼻腔から聞こえてきた




「邪魔をするよ」


一週間に幾度耳にするかはわからない

団長が執務を行う個室の前に設置された長く伸びた政務室に詰める団員たちにとってはもう慣れっこになってしまった声に、取って付けたような挨拶を送る


マチルダの最高権力者は誰もが認める白の騎士団長だ

次いで、内政や民事の訴訟を担当する赤騎士

道路の整備などのライフライン等、民間人の対応を行うのが青の騎士


その赤青の両団長が親交のある間柄であることは周知の事実だ

だが密会や密談というほど長い時間そこに滞在をしないので、誰も彼らに癒着があるなどとは大っぴらには指摘しない

カミューとマイクロトフは、過去には殴り合いもして両成敗になっているくらいの悪友としても有名だ

現状では彼らが手を取り合って取り組むような難事もない上に、現在の青騎士団長は謀略や策略というものにとんと縁がない人柄だと認識されていた

書類整理や政務なども精力的にこなすが、肉体労働が本来得意だとの覚えがめでたいというか

頻繁に下位の騎士らを連れて街の見回りに出かけるし、机上での仕事がある程度片付けば遠乗りに出かけて視察も行う

そのあとにまとめなければならない報告書も後輩である部下たちの手伝いをし、領民に相談事を持ちかけられればその場で持ち帰る

政治よりも領地内の実務に当たることが青騎士団の主な役割だった

無論、騎士団内随一の人員の多さから、同時に戦闘員としての力量や采配も求められる

騎士と聞いてすぐに思い浮かべるのは青の団長とその組織だというくらい、ロックアックスをはじめとしたマチルダ騎士団領の、特に市井の人々の間では彼らの名の覚えがめでたかった

ゆえに、その上に立つ白と赤の騎士団からは疎まれることも少なくなかったという


団長から仮眠を摂ると言われ、執務室から人を遠ざけるよう通達を受けていたが、寝るのは五分だと聞いていたのでさほど問題はないだろうと決めつけ、政務に当たる補佐役の青騎士たちは来客の有る無しについて気にも留めなかった

そもそも颯爽と鮮やかな紫色のマントを翻してやってきた者は常日頃から長居をすることはないし、休眠を妨げられた自分たちの団長と一悶着があったところで彼らには大した実害はないからだ

眠っているだろう上司は元々部下に対してやつ当たりはしないし、するとしても、同期で親友で気の置けない来訪者である男に対してだけだと予め分かっていたからだ



「……………」


軽いノックとともにドアを開き、断りもなく敷居を跨いだ男は、赤い団長服に身を包んでいた


「…いいご身分だ」


…というのは単なる独白だったのだけれど、なんとなく仮眠を摂っていそうだと勝手に想像をしていたので、視察がてらに立ち寄ってみたのだが

とはいえ、色の違う騎士団の詰める館内には赤騎士の最高位を務めるカミューといえどおいそれと近づけるものではない

管轄が違えば略式でも入館の際の署名や手続きは必要だし、そこの責任者がマイクロトフ同様に同期だったこともあり顔パスにしてもらっているけれど、公務であってもなくても滅多やたらと入って行ける場所ではなかった

カミューはそんなことは当たり前のようにわかっているし、白騎士の上層部からの監査が入れば問い詰められるだろうことは見越していたが、そんなものはどうとでも取り繕えると自負していた

なので気負いなく、部屋の隅のソファに腰から上を沈めて仰臥している友人の姿を見下ろした

室内や机の上は寝入る先刻まで激務に励んでいたことを彷彿とさせるような乱れぶりだが、退館する就業の時刻には綺麗に片付けられる

どんだけスーパーマンなんだと舌を巻きたくなるが、マイクロトフは自分同様に仕事ができる人物だった

意固地で頭が岩石よりも硬く、柔軟性に乏しいが、決めたことは必ずやる

必ず、と決めたものが、青騎士のまとめ役である団長位としての職務であるということが、そもそもの多忙の始まりだった

それ以前に、騎士となって配属が決まった時点で、この青年には私的な時間を有効に使うという思考はなかったな、とカミューは心中で独りごちる

なんでもかんでもマチルダのため

そのために邁進することに力を惜しまない

それは尊敬していた彼の祖父を亡くしたことで凝り固まった個人的で独善的な誓いだったのかもしれなかったが、そんなものはただの鎖だ、とカミューは考える

おのれを縛り付けて幸福な人間などいない

しかしそれをマイクロトフ本人に説こうとしても、最初から最後まで突っぱねられて終わりだ

心に余裕がないというか、頑として溶けない氷塊のような石の壁が青年の心の中にあるようだった

カミューはもう、それをどうにかしようということは諦めた

砕けないというなら、彼を消し炭にするほどの炎で溶かすのみ

長い時間をかけてでも、相手に気づかれないようにじわじわと

彼を堅固に護る障壁を、跡形もなく溶かすのみ

そう思った

しかし、それは今ではないし、策略を巡らせるのも罠にかけるのも、小さく細やかで、誰にも気取られてはいけないものでなければならない

当のマイクロトフ本人は疎か




「…………」


もう一度、親友である男の姿態を眼下に収める


自分よりも優れ、明らかに通った鼻筋

透き通るような、日焼けの残らない肌理の細かい肌

誰が見ても明瞭な目鼻立ち

意思の強いはっきりとした眉

滑舌と発声が良さそうな大きめの口

どこに出しても恥じないくらい見事な男振りなのに、なぜこうも蠱惑的に自分の眼には映るのだろう

こいつは誰よりも愚かな大ばか者、親友不孝者であるというのに


カミューは自嘲を交えてそう断罪すると、内心とは逆のことをした


殴ってやりたいほどの石頭の―――仕事人間の、頬には触れず、癖のない長い睫毛を近づける

短時間の仮眠とはいえ、苦しいだろう詰襟に長い指先をかけた


おまえはいつまで、とカミューは無意識に口にした



おまえはいつまで、眠り姫を続けるつもりだ


私の前で



音もなくそっと金具を外し、襟元に隙間を作り、整った爪先を忍ばせる


力を抜いて浅く開いた唇に、軽く同じそれを重ねる


だがしかし、相手が重い睫毛をゆるゆると持ち上げた瞬間、赤い影は目の前から立ち消えていた





「…カミューが来たのか?」


起床した旨と人払いの解除を告げに、マイクロトフは執務室からその姿を見せるなり、扉の近くにいた部下たちにそう尋ねた

はい、と今日一日部屋での勤務の担当を言い渡された騎士の一人から返事が返る


「ですが、すぐに帰られましたよ」


そうか、とマイクロトフは言われた額面そのままを受け取った

そして、おわかりになられましたか、との簡潔な問いに、同じように短く返した


「…どうやら寝込みを襲われたようだ」


「…………」


束の間、青騎士団の政務室の一角に沈黙が落ちた


場を取り繕うという意図があったわけではなかったが、ご無事で何より、という一人の騎士の冷静な応答を得て、ガヤガヤした普段通りの雰囲気にあっという間に戻ったが


よくお気づかれましたね、とカミューの来訪を指して投げかけられた問いに、マイクロトフは取り立てて顔色を変えることなく、「服装が乱れていたし、空気が変わっていたからな」、と平素の声音で返した


「……………」


実直が服を着て歩いているような上司からもたらされたのは、明らかにおかしな想像をしてしまうような回答だったが

あの短時間では誰がどのようにしても事に及んで済ませられないだろうと合点し、その話題は何事もなかったかのように日々の慌ただしさの中に紛れていった




5 minutes

―――たった5分の、永遠




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カミマイ話をもう少し…!

幻想水滸伝2のカミマイ話をもう少し

※関連記事※
11年目のカミマイ考察&過去同人誌のネタバレ!
http://sb.mid-track.jp/article/191340526.html


思い出したので、いろいろと補足を

空の民草の民シリーズで描き切れていなかった
続編的なネタの部分について、思い出したので補足…!

・小さい(そうでもない)カミューがマイクロトフの団長室に現れるようになる
 →マイクロトフは少年カミューのことを何だろうなと思っても仕事に忙しくて動じない(座敷童かな?的な(笑))
 →かなり辛らつに周りと大人の自分を表する少年カミューの相手を適当にする、青年マイクロトフ
 →たまに仕事の効率について少年のカミューに指摘される(笑)
 →なんだろうな、と思っても(マイクロトフは現実主義者)、親友の少年時代の姿だしカミューだし、結局いうことを聞くマイクロトフ(甘い!)
 →少年カミューは大人のカミューが恋のライバル(爆笑)。なぜなら、小さいマイクロトフを取られているから!!(爆笑)
 →そんなカミューの内情なんか知らないから、マイクロトフはいつも通り
 →青年(団長)カミューももちろん知らない、少年カミューと青年マイクロトフの秘密の交流

…というのがあって、青年マイクロトフは超現実主義者で頭が固いので
少年カミューの存在について疑いはしないのですが(そこにいる、という意味で)
特に信じてもいないのですね
御伽噺にある延長上の何かだろうくらいにとらえていて、特別重要視はしなかったけれど
カミューがカミューであるゆえんみたいなのを少年カミューから学び取って
そこは親友であるカミューへの信頼が勝っているために、よく進言を取り入れていたと思います
青年のカミューから忠告されたりアドバイスをされるよりも
少年カミューの言葉や見方を素直に聞いていた節があります、想像するに

…で、最終的には少年カミューは大人のカミューから小さい自分の弟である(『空(ニェーバ)』参照)
マイクロトフを取り戻して、よし、ってなって帰っていくのですね(自分のいた世界へ)

少年カミューが小さいマイクロトフをその手に取り戻したことがすなわち
カミュー×マイクロトフがしっかりと成立した(二人は両想い)…ということの暗喩だったりするので
おそらくこどもの姿をしたカミマイは
彼らの自己投影…というか本心や本音の投影だったのではないかな、と思ったり

何の魂胆もなく思いついて書いていた作品なので(大体みんなそう(笑))
なんか、そういうからくりがあったんじゃないかな、と思います

少年のカミューが団長のマイクロトフのもとにいたのはそれほど長くはなかったのですが
(小さいマイクロトフを大人のカミューから取り戻すためでもあったので)
青年のマイクロトフは少年カミューのことを全然覚えていません(笑)

あほなのか、というよりも、常に目の前のことに誠心誠意、精いっぱい、という感じなのかもです
そこが良いのですが、遊びとかしないし、余暇の使い方も仕事だし(鍛錬も含めて)
マイクロトフは窮屈だったんじゃないかな…それが自分の普通だと思い込んでいたとは思うけど…
という印象です

カミューはそんなマイクロトフに腹も立てていたし同情はしないしあほだな、と思いながら
全然見捨てることなく、そんな一辺倒なところにひかれていたと思います
マイクロトフに自身の愛を教えた後は、その愛に一辺倒になるだろう、…という自信も
カミューの中には絶対的真理としてあったのかもしれない

そんなこんなで、自分の頭の中での青年期のカミマイは
ただ青春していたような気がします

熟成期はもちろんマイクロトフが騎士を引退したときで(復帰できなくならないと騎士はやめないと思う)
カミューの故郷でかなり若いうちに隠居生活を始めたころからなんじゃないかなと思います
とはいっても、マイクロトフ自体エネルギッシュだし故郷で指導者としての実績はあるしなので
カミューに会いにカマロへ出向いたあとは
異国とはいえ周りが放っておかないとは思いますが
カミューはカミューで祖国で快適に自分らしくやれていたのではないかと推測します
ハッピーですな…!

てなわけで、
自分の中で、カミマイのスィートホームはカマロです(笑)


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古きジャンルの良い作品

pixivや外部サイトでの作品発表が常態となった昨今
ジャンルの作品は半永久的にネット上に残るのかどうかといわれたら
魚拓くらいしか残らないんじゃないかな…と将来的には思います

データなので、HDやディスクに保存しなければ手元に残りませんし
特にネットの外部サービスでしか作品を置かない人には
放流してそのまま…という形も少なくないのかもしれません

それとは別に、ネットでの同人が開始した…要するに
テレホーダイ(夜間の固定料金サービス)を利用して
通信を使って同人活動が始まった時期の作品が
無料ホームページサービスの終了とともに
どんどん消えていく…というのがやっぱり切ないなぁ…という感じです

同人HP全盛期を一応は体験した身なので
(そもそもFD(フロッピーディスク)を使ったり
 マウスで色塗りをしていたころから触れているので)
珠玉の小説群(当時のネットサーフィンでは主に好きなCPの小説を読んでました)が
これまでも時代の流れ的、環境的な問題その他で
めちゃめちゃ大量に消えていったのを記憶しています

あんなの読んだな…
また読みたいな…と思っても、もう見つけられないですね…

古い作品は常に削除!
整理整頓!
…という方もいらっしゃるので、
古の同人をやられていた方は
自身の昔のファン作品を過去の黒歴史としてとらえている方もいらっしゃるかもしれませんが
めっちゃよかった作品もあったので…ああ…;;…という感じでおります

本人にとって、あれは些末な児戯だったと捉えられていても
読んだ側にとってはめちゃ面白かったしまた読みたくなった…というものも
あるのですね…実際に…
特にマイナージャンルのマイナーCPの作品とかはほんとに

pixivで検索すればいいじゃない!!
…というのももっともなのですが、なんか、こう
肩までずぶずぶ浸るには、個人の同人HPが非常に本当に居心地がよかったです

その方のセンスで作られて、その方の作品がほとんどを占めて
その方の更新の履歴、熱の歴史を見れたわけなので…
過去のHPや作品のログは本当に貴重だと、今でも思います

ブログをHP代わりにしている方も、ブログサービス自体が終了という憂き目にあったら
引っ越しすればよいとしても
すでに管理者がいなくなっている場合
(サービス自体は継続しているけれど管理人が戻ってこないなど)
作品はどこにも移されることなく消えていくのみ…という………

もちろん筆者以外がどこかに移すことはご法度ですが
そうなったらもう、手元に自分用の観賞用としてログを保存するしかないのかな…
そして、その作品の良さを感想でしかつぶやけなくなる…感動を共有できなくなる…とかに
なるのかなぁ…と思います

過去の作品は滅びゆくものたち…であるのかもしれませんが
めちゃめちゃいい作品をいくつも読ませていただいたので切ないなぁ…と思った次第です

HPサービスの終了、ブログのサービスの終了を
TLで見かけて、やるかたない思いを感じました


自分は個人同人HPを経費を払って所有・維持して、
ログの中には引っ込めたものもありますが
今も雑な作品については載せたままにしています

時折覗きにいらして下さる方もいらっしゃるのかもしれませんが
そのジャンル懐かしい、とか
そんなジャンルがあったんだ〜とか
思い出して楽しんでいただけておりましたら幸いです

消えゆくログ…思い出…力作…好きなCP作品………
好きなCP作品が消えていくのだけはやっぱりこう……切ないです……


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