カミュ―には幸せになってほしいカミマイです
★★★
水堂とらくファン作品・空の民草の民シリーズより
幻想水滸伝2【カミマイ】妄想13
カミュー×マイクロトフ
深層の露見
駄目だ
駄目だ、とマイクロトフは苦しげに息を吐いた
こちらが怯んだ隙を見逃さず、追い詰めるような強さで、マイクロトフを引き寄せたカミューの唇が頬を避けて喉を這う
生殺与奪の権利を男が有するかのように、喉仏に舌を這わせ、歯を立て吸い付き音を立てる
何が駄目なのかとカミューは間近で問うた
熱い滾りを宿した声はマイクロトフの鼓膜に直接届いた
光をひそめ、色を濃くした飴色の双眸には赤を思わせる炎が揺らめいている
マイクロトフは深いため息をついた
すべてだ、と言ってしまいたい衝動をなんとか抑える
言ってしまえば、臆病だとカミューはマイクロトフを罵るだろう
そんな屈辱に耐えられる自信は、今はなかった
カミューの指先が耳裏を伝い、少し緩んだ横髪に触れる
朝の鍛錬で水をかぶり、しとどに濡れた黒髪に鼻先を寄せる
そのまま後頭部を抱くように手のひらが回され、もう片方の腕で腰を捕らえられ身動きができなくなる
いや、はねのける意思さえあればそうすることは容易かったのかもしれない
カミューはマイクロトフの視線を正面から捉えたまま、シャツのボタンを器用に外した
均整のとれたマイクロトフの腹筋が露になり、カミューは指の腹でそこをなぞった
鍛錬だけでここまで見事に鍛え上げられる者はいないのではないかと思われるほど、恵まれた肉質だ
所々に傷痕の残る表面は張りがあり、意外と手触りがよい
カミューはマイクロトフの体が昔から好きだった
触れる都度、びくりと大きな震えが走る
嫌悪の反応でないことは、上気した青年の顔と、わななく唇から不規則に漏れる呼吸からも明らかだった
カミューの手全体で存分になぶられたマイクロトフは、しかし懸命に口中で舌を動かし、言葉を継いだ
「…婚前での交渉は、駄目だ」
「……………」
やっとのことで口から出たのは、自分でも時代錯誤な言い訳だったと思う
マイクロトフはそれでもなんとかこの窮地を切り抜けようと試みた
触れてくるカミューの熱さに、これ以上この場で絆されるわけにはいかない
騎士たちに痕を見られたことも痛手だが、さらに朝の公務に遅刻をした上、体の動きが鈍くなっていたら弁解のしようがない
なんで自分がされる側だと決めつけているのかはさて置いて、私的な情事でそんな事態になったのだとしたら、指導者として周りに示しがつかない
部下たちへの申し訳なさに、自分はその場で団長の職を辞してしまうかもしれない
それだけは、今の現状、マチルダの未来のためにもあってはならない
どんな理由があったとしても、祖国への離反の引責は自身が取る
マイクロトフはそう心に決めていた
だから、駄目だと言った
流されて、うやむやのままにこの先を受け入れて、迎えて良いはずがないと
仮にカミューとそうなったら、マイクロトフは今の自身の信条が揺らぐ気がした
石頭だと罵られようが、流されたままで志を二つも両立し、維持し続けられる自信がなかった
マイクロトフの発した言葉はカミュー自身を拒否しているとも取れるし、期限付きの停戦を嘆願しているようでもある
マイクロトフはこの行為自体を「やめろ」と言っているわけではないのだから
だとしたら、それが甘さだな、とカミューは思った
そして自分も、大層この親友に対しては詰めが甘いようだと自覚する
本来であれば、このまま膝を割って押し伏せても相手は拒めない
拒めない決定的な理由があると、カミューは直感した
しかしこの先に至った場合、強引に事を進めた場合、マイクロトフの側に今度は別の理由を与えてしまう
カミューが無理に進めたから、自分の意思ではなかったと
本心を自覚することなく、相手に責任の一端を押し付ける
それすらもマイクロトフは自らの不徳、不覚悟の結果だったと自責の念をいだくかもしれない
それがカミューは気に入らなかった
一方だけの思い込みで深まる関係など、あってはならない
笑い話で終わらせてはならない
真に相手を欲するのであれば
「…仕方がないな…」
マイクロトフは婚姻を約束した良家の子女や生娘ではない
なのに自分は何をやっているのだとカミューは思った
どうかしている
そうまでしてでも、意固地なこの男を、深い部分から絡めとって手に入れたいらしい
自嘲を滲ませ、押し伏せた相手の剥き出しになった肌にカミューは強く吸いついた
明確な意図を持って、きつく、さらに痕が残るように
「っつ……」
マイクロトフから押し殺した呻きが漏れる
痛みを訴えてはいたが、苦痛だけではなかったようだ
頬を紅潮させ、睨みつけてくる夜闇のような深い色の眸には、薄い靄のようなものが浮かんでいる
生理的なものだろうが、戦いの傷や痛みに体が慣れていても、一方的な戯れには不慣れであったようだ
亭主のいるご婦人に押さえつけられ、関係を求められるような場面など彼の過去にはなかったのだろう
この堅物を相手にそんな暴挙に出る勇気のある女性ならば褒めてやりたいところだが、単なる想像であっても深い嫉妬を覚えずにはいられない
それが男であれ女であれ、この友人に無体を強いることが叶うのは自分一人であれと心の底から願った
「…今はまだ駄目だ、という解釈で良いのかな?」
マイクロトフ、と、カミューは底冷えのするような低い声で囁いた
確認を促され、さすがに「今後も一切手を出すな」とは言い難い状況であることをマイクロトフは理解した
もう、戻れないところまで来てしまったのだと
マイクロトフにはカミュー以外の男に迫られた経験はない
ない、と断言してもおそらく良いはずだ
慕われた経験はある
しかし断固として、マイクロトフの心も体も動かなかった
なのに、カミューに対してだけは、理由をつけなければはねつけることができなかった
団長職だから
色が違うから
監視下にあるから
マチルダの行く末が目の前にあるから
すべて真実であったし、正論だと思った
今、カミューに自制を促している理由もそのためだ
だとしたら、ここでマイクロトフ自らも覚悟を決めなければならない
ぎりぎりの境界で踏みとどまっているカミューに対して、誠意を見せる覚悟を
「カミュー…」
マイクロトフは目を瞑った
一回、二回と深呼吸を繰り返してから、厚い瞼を持ち上げた
ゆっくりと拓かれた視界には、烟るような淡く明るい頭髪を持った友の顔があった
その先をと願うように、長い睫毛が秀麗な男の眼差しに深い影を落としている
流されては駄目だと自身を戒めながら、マイクロトフはため息のような言葉を自分が吐くのを聞いた
「俺は、おまえを」
カミューはその続きをしかと耳にし、喉の奥でかみしめた
だが今は駄目だと続けるマイクロトフのひそめた目線を、ひどくつらいもののように見つめた
白い頬を何度も指の腹で撫で、やがてカミューは深い嘆息を吐いた
本当であれば、思いと真反対の要求を突きつけるマイクロトフを殴りつけても良かったのだろう
マグマのようなうねりが、カミューの中にはある
堰を切って溢れ出すのを今か今かと待ちわびているそれを宥めるには、まだ足りないと思った
マイクロトフは苦しそうな表情で、その様を見返している
互いに溺れるには時期がまだ整っていないとマイクロトフは考えているのだろう
……それでも
カミューが動くと、マイクロトフの首筋に小刻みな震えが起こり、反射的に瞼を閉じた
唇に当てられた温もりに、マイクロトフはカミューを感じた
啄むような優しい接触でマイクロトフを解し、やがて促されるように開いたわずかな隙間を見つけ、カミューの舌先が滑り込んだ
友愛でも親愛でもない証のそれは、カミューの乾いた大地に流れる河を潤した
マイクロトフが自身を受け入れ、応えていることに、徐々に理性が麻痺していく
時間が止まったように互いの温もりに溺れ、耽溺し、やがて瞼を持ち上げた
初めて真正面から受け止めた接吻は、現実味があるのにひどく穏やかな心地を誘った
誓ってくれ、とカミューは言った
マイクロトフの痺れた脳に直接語りかけるように
心の臓に刻みつけるように
私以外に決して心を許さないと
私以外には体を許さないと
「カミュー」
喘ぐようにマイクロトフはその名を呼んだ
「誓ってくれると言うのなら、私はおまえのためにどんな困難にも耐えよう」
これから起こるすべてを指して、内包して、カミューは言った
マイクロトフはカミューを自身の道連れにするつもりはなかった
マチルダ離反の責任を取り終えた後、必ずカミューの思いに応える
応えるという答をカミューに出す
とはいえ、それを公言するのも恥ずかしいというか、今はまだ腹立たしい
大体、カミューの口づけは巧みで旨すぎる
どこで学んだんだと不審に思いながら、自らと比較して些細なことに憮然としてしまう
内心を誤魔化すように、照れくささを隠すように、マイクロトフは横を向いた
「カミューは俺に、修道士になれとでも言うのか…?」
ぶすっとむくれたような青年に、男は微笑いかけた
騎士団きっての色男の名に恥じぬ、晴れた秋の空のように鮮やかな風貌だった
常に騎士としての節制に努める手前、禁欲を貫くのは大儀でないこととはいえ、なんだか腑に落ちない
最初にカミューに提示したのは自分だとはいえ
しかし宥めるような甘さの残る親友の顔を見ているうちに、マイクロトフの不満は自然と消えた
カミューという風に吹かれて、呆気なくどこかへ吹き飛んだのかもしれない
その代わり、私の魂はおまえのものだ
とろけるような笑みを深くして耳元に息とともに吹き込み、カミューは再びマイクロトフに口づけた
もう二度と忘れられないように、逃れられないように
長い指を、頬に首に指に絡めながら
渇きから解放されたカミューの温もりがわずかに離れ
その唇が続く音を形にする
―――永遠に
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