元ネタを知らない方も大歓迎の更新です
二人はどうなるのでしょうか…!?
★★★
水堂とらくファン作品・空の民草の民シリーズより
幻想水滸伝2【カミマイ】妄想6
カミュー×マイクロトフ
湯上りの蜜
ロックアックスでの風呂と言えば、サウナが常識だ
蒸気で全身を温めて血行の促進を促し、身体の内外を同時に整える
個人の邸宅にはそれほど大掛かりなものはないが、街には男性専用の大衆浴場が幾つか点在するほど市民にとってはメジャーな代物で、騎士団内でも各部署に詰める騎士専用の大浴場が備わっていた
特にマチルダ騎士団で最大の団員数を誇る青騎士団の詰め所では、入れ替わり立ち替わり、芋洗い状態で騎士たちが汗を流す光景も珍しくない
もし仮にマチルダ騎士団をスポーツが盛んな学園に例えるならば
青騎士団は体育会系の部員たち
赤騎士はそれ以外の学術的、芸術的、工学的な趣味が犇めく文科系
白騎士は彼らを取り仕切る執行部
…という具合になるだろう
市民の間で騎士団の色の違いと役割については漠然としか把握されていないが、かなり細部まで各々の長短に見合う役割が決められていた
そしてその運動部の猛者たちで溢れかえるイメージのある青騎士団は、団長であるマイクロトフを中心に、やはり体育会系のノリで結束をしていた
水を被った熱された石から水蒸気が勢いよく立ちのぼり、湯気が彼らの体全体を覆う大きな浴場で、団長を中心に、男同士、裸での打ち合わせに余念がなかった
本来であれば政務室の長い机の前で点呼を行ってから確認作業行うのだが、演習から帰った者や砦の任から帰還した者の慰労を兼ねて、ここで報告会を開きたいというマイクロトフ立っての望みを聞き入れた形になる
青騎士団ではそれが半ば慣例化していたので、全員が長いタオルを腰に巻いた上半身裸の恰好で、上下の別なくマイクロトフを囲むように、突き出した岩のようなものを椅子に見立てて腰掛けている
所謂裸の付き合いで、酒が絡まない分、蒸し暑さに耐性があれば誰もが快適に議事を進められる環境だった
無論、その間も夜の勤務を終えた担当騎士がサウナに出入りを繰り返す
水分の補給をしかと各自で確保させ、マイクロトフは居並ぶ部下たちの話に耳を傾けた
錚々たる青騎士団のメンバーが集う中、肌の色も髪の色も、もちろん体型は疎か筋肉のつき具合、バランスまで、見事に皆バラバラだ
マイクロトフだけが飛び抜けて色が白いというわけではないし、癖のある毛髪の黒髪の騎士もいる
茶系でも赤の騎士団長ほど明るい色の頭髪はないが、焦げた茶色や赤土色、グレーからアッシュ、白まで様々だ
一様に短く髪の裾を切り、清潔感が保たれている
爽やかなロックアックスの若者らしい佇まいだった
先代を補佐した青騎士団の執行部は、解散した後は後輩の育成に尽力している
若い世代が多く、年長であってもマイクロトフより八つか九つ上がいるくらいだ
騎士となり、十年も経てば進退の都合によっては騎士を辞めたり、騎士学校で責任ある立場を任される
マチルダ騎士団では白騎士以外はかなり引退時期が早い
若い力を重要視して世代交代を早めている理由は、マチルダ騎士団の上層部が手駒として扱いやすいと考えているからだろう
戦闘が必要な場面では元騎士も駆り出されるので、実質、騎士団を退いても忠誠は常にマチルダに在る、帰属する、ということになる
それでもマチルダの騎士たちが、夢や希望に満ち溢れている若者たちであることに間違いはない
マイクロトフが団長の任を引き継いだのは確かに若い時分だったが、歴代の騎士団長の中で最年少というわけではない
しっかりと後任を任せられるだけの器に仕上げたいとの前団長の意向の下、マイクロトフは青騎士団の各部隊を隅々まで回らされた経緯がある
どこで誰が何を担うのか、実地で事細かに教えられ、覚えさせられた
並大抵の根性と努力の積み重ねなくしては、大抵の者は途中で根を上げる
白騎士や赤騎士がキャリアだというのなら、青騎士は現場で叩き上げられた精鋭揃いだ
それを束ねる者は、更に並大抵の努力では事足りない
青騎士団が多くの人員を有し、しかも中身は体育会系だと囁かれる理由はそんなところにあった
「報告は以上です」
秘密裏に行った業務ではなかったので、同じ青騎士に聞かれても問題はない
ご苦労、とねぎらい、マイクロトフは会の解散を宣言した
机上で立ったまま行うよりは、他の騎士たちも幾分リラックスできる
そう考えたからこそ風呂場での開催を提案したのだが、マイクロトフ自身も話をしているうちに十分に体も温まり、あとは冷たい水を頭から被って出て行けば済むところだった
肌の上に無数の玉となって浮かんだ水滴を拭い、身につけた長布を解くと誰もが見惚れる見事な裸身が露になった
脱衣所で元の騎士服に着替え、残り時間で他の政務に当たることを決める
蒸気を満たした室内から散っていく団員たちは、これから休暇に就く者、担当部署に戻る者、口頭以外の報告書と向かい合う者、書類と再びにらみ合う者、様々だ
マイクロトフは頭に叩き込んだ諸々の報告内容を上層部に提出する用紙に書き起こすため、おのれの執務室に戻ろうと決心した
大浴場を出て、庭を突っ切り上への階段を目指そうとして、見知った影を見咎める
カミューだ
何をしているのかと思ったが、大方いつも通りの散策だろう
一応、体面としては別部署の管轄内ではあるのだが
赤騎士の仕事は自分のように机にかじりつくか、対外的なものが多い
白騎士の代わりに社交の場に駆り出されて騎士団代表の代理としての役目を果たしたり、簡易な挨拶や懇談など、町議会に召集されたり、婦人たちの社交の場に呼び出されたり、裁判の担当をしたり、揉め事の解決に奔走したり、色々だ
肉体労働よりも社会的な細かな任に当たることが多いので、マイクロトフから見れば非常に苦手で厄介な役どころだし、覚えることも実際に多いと聞いている
それなりの地位にある人物の顔と名前と役職と家柄と家族と歴史を個別に記憶し、それぞれに当てはまる様式、仕様、仕来り、手法、嗜好をすべて頭に入れた上で交流し、友好を結び、時に駆け引きを交えて辞令を実行し、成果を上げなければならない部署だ
年末や年始の挨拶に出向いたり招待される数と量が、青騎士団長であるマイクロトフの比ではなかったことからも容易に推測できる
加えて、その体一つで騎士団と他の場とのパイプ役を努めねばならない
精神的にすり減るので、天才的な手腕か、天性の資質がないとやっていけないと見習だった頃に同期だった赤騎士から耳にしたことがある
同じ騎士でも、青騎士の方が段違いでわかりやすい職務に就いていることをマイクロトフは理解している
例え、前線で働き続けるための肉体的疲労が青騎士たちには常に付随していたとしても
ここまで声が聞こえてきたよ、と男は言った
大声を張り上げたつもりはない、とマイクロトフは返した
カミューという名前を持つ赤騎士団長は、意外と張りのある良い美声だと友人を褒め称えた
お世辞と思えなくもなかったが、今度からは声量を抑えるようにする、とマイクロトフは顰めっ面で答えるにとどめた
次いで、先日は手間をかけた、と言葉を継ぐ
何のことを指しているのか、カミューはすぐには思い至らなかったようだ
意識を失った自分をソファまで運んでくれたのだろう?
そう水を差し向けると、ああ、と合点したような声がその口元から漏れた
カミューは笑みを絶やさないままでいる
それほど、風呂場から聞こえた歓談の中身が面白かったのだろうか
気にしなくていい、と、いつもならばそう返したのかもしれない
いつもの親友であれば
礼をもらっていないな、とカミューは笑った
その瞳には不敵な光が見え隠れする
陽光に透けてベージュ色をしたブロンドのように輝く髪と同じ、それよりも少し濃い色調の品の良い睫毛が揺れる
礼などない、と言いかけて、カミューがゆっくりと前進してくるのをマイクロトフは肌で知覚した
一歩一歩、歩を進める者を相手に逃げる行為など愚の骨頂だし、突き飛ばすのも同じ団長としてやっていいことではない
近づいてきたところで戦場の敵ではないのだし、ここは戦場ではないのだし、無害だろうとは確信していたが、相手が何を考えているのかまでは見透かすことができなかった
何も考えていない
そう答を弾き出し、ただ正面から対峙したまま、待つ
カミューの手袋に包まれた指が、額にかかる短い前髪を払うように触れ、離れた
「………?」
まだ濡れていたのだろう
確かに適当にしか水分を拭っていなかったが、カミューの白い愛用の手袋を湿らせるほど毛先に集まり、滴るほどではなかったものの透明な雫が生まれていたのだと気がついた
そのまま手は体の横脇には戻らず、カミューは水の香りを楽しむように鼻先でそれを探る優美な仕草をした
瞼を浅く伏せ、意味ありげにつぶやいた
夜の匂いがする
時刻的に、そんなものが来るにはまだ数刻を要する
耳に届いた感想に、詩的なのかそれ以外の意味合いがあるのかを判断しかね、風邪を引く前に戻る、と断ってからマイクロトフは友人に背を向けた
なぜかはわからない
触れていないはずなのに、額が炎を掠めた時のように熱い
そんな気がした
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