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2025年05月23日

【カミマイ20】忘れじの空

カミマイ(赤青)本の再録というか
どうしようかなと思いつつ…
空の民草の民シリーズも長いし
ホワイト・ゴーストも長いし…
馬王子は雑ネタだし…という感じで悩む今日この頃です…!

★★★

水堂とらくファン作品・空の民草の民シリーズより


幻想水滸伝2【カミマイ】妄想20

カミュー×マイクロトフ

忘れじの空



故郷から仕官しないかとの誘いを受けている

抑揚なく発された男の言葉を、マイクロトフは静かに聞いた


カミューの生まれであるカマロ自由騎士団領については、度々話を聞いている

そして男がいずれはそこへ帰ることも

騎士になる以前から決めていたことで、故郷を離れたカミューがロックアックスに単身で訪れたのは正騎士としての称号を得るためだ

騎士という身分を抱える国は他にも幾つかあるが、領地の内外でその存在を認められ、身の保証となるような正式な官職や役職として通用するところはさほど多くない

世の中には、後ろ盾のない自称であったり、あるじを持たない信条だけの騎士もいる

マチルダ騎士団も、組織として独特の設立と遷移の歴史がある

土地とその領民、そして都市同盟のために、騎士たちだけで作られた自治の象徴

三つに分かれる騎士団で構成された形態そのものに、幼いカミューは興味を引かれた

そこへ仕官し、正式な騎士としての地位を得て、おのれの力を試す

とはいっても高潔な志だけでなく、三つある騎士団とやらの一つに食い込み、名を挙げたいとの野心ももちろん少年の頃のカミューにはあった

次男坊ゆえに一家のしがらみも少なく、それゆえふるさとでの存在意義というものがカミューにとって希薄だった所為だろう

どこへでも自由に行って、職を探し、安定してからは家族を持って暮らせばいい

ただ、自身がどこまでやれるのか、カミューにとっての力試しの意味も当然あった


明らかな目的を持って訪れた城塞都市ロックアックスで、カミューはマイクロトフと出逢い、彼という素直な魂に惹かれた

風土を象徴するような純粋な黒に最初は目を奪われたが、マイクロトフの中に土着の騎士であるマチルダの根源を見たからだ

騎士になるために生まれたような、というのは過言であったが、マイクロトフは彼の尊敬する祖父の姿を追い、追い越そうとひたむきに努力を積み重ねる少年だった

当時は背丈もなく、大きな目とあたたかい手のひらと丈夫な骨格を持つ、少し頑固なところのあった一つ年下の彼が、カミューの初めての異郷の友人となった

マイクロトフは、特に世話焼きだったわけではないのだろう

士官生にあてがわれた宿舎を管理する上官から気にかけるよう頼まれたと出逢ってすぐに理由を明かしたが、長男としての生来の責任感の強さからか、カミューが慣れない土地や習慣に難儀をしないよう彼なりに便宜を図ってくれた

それこそ毎日、顔をあわせる都度、色々なことを話したと思う

日常や非日常の些細なことから、将来の在り方、身の振り方のことまで

色恋に疎い朴訥な、わるく言えば面白みに欠けるマイクロトフとは、艶っぽい話をあまりしたことはなかったが

カミューはマイクロトフを快い存在だと感じ、彼の真白の肌と黒髪と真っ黒な珠玉の宝石を愛した

真っ直ぐに視線を伸ばし、常に真正面から対峙する、その頑なな魂を愛した

彼の中には、カミューにとっての果てしない空があった



空はここにある


いつかマイクロトフから聞いた言葉だ

ロックアックス城から離れた教会の近く、肌寒い時期であるにも関わらず晴れた蒼天に片方の腕を伸ばし、騎士見習だった時分、故国を別にする友にマイクロトフはそう答えた


ロックアックスの城は、彼にとっての空だった

だから決して手の届かぬ、遠い存在ではないと

ロックアックスとマチルダという名と象徴は、マイクロトフの心そのものだった




マイクロトフはカミューの言を受けて、少し思案したようだ

カミューにも、その心が伝わる

長年、ツーカーの仲でやってきただけのことはあるのだろう


「…カマロ自由騎士連合か」


グラスランドに存在する自治領の一つだが、歴史はある

マチルダとは異なるが、同じ騎士を輩出する国だ

どちらが上であるかという議論よりも、同業者的な意識をマイクロトフは持っていたらしい

故郷の手紙でも度々同じ内容が添えられていたので、今の情勢についてもカミューはよく理解していた

両親の息子を呼び寄せたいというささやかな意思を感じ取りつつ、そろそろ身を固めても良いのではないかとあちらは考えたのだろう

元々戻る方針でいたカミューには、好きにしてよいという親の気持ちと、息子の身を思う親心の二つが見え隠れする

無論、カミューとてここまでロックアックスに長居をするつもりはなかった

伴侶や家族をここで得たとしても、彼らを連れてグラスランドに帰る気でいた

要は、デュナン統一戦争が収束してしばらく経ち、そろそろ良い頃合いだろうと考えて、向こうから打診をして来たのだろう

その事実を隠すつもりはなかったので、カミューはマイクロトフとのいつもの会話の中でそのことを切り出した

もしここが食堂などの公の場であれば、日常会話として流されていただろうが、そこはカミューとマイクロトフが詰める政務室だった

カミューは元赤騎士団長として、今は期限付きの相談役の一人としてマイクロトフをサポートする任に就いている

なぜそんな抽象的な役に就いたのかという、その理由は簡単だ

マイクロトフが請け負った最高責任者の座の一つに権限を集約させるためと、騎士団の分断を阻止するため

大きく環境が変わった騎士団内部の派閥争いを抑え、一枚岩となる必要があったためだ

その目的を果たすために、カミューとマイクロトフはかつて三つに分かれていた騎士団の間を行き来し、伝手を広げて信頼できる人材や人員を確保して来た

協力が得られるまで粘り、現状を正しく理解した上で、根気強く交渉を続けた

そのために、彼らがえがく未来というものを具体的に組み立てて組織し、騎士たちの前に提示しなければならなかった

マイクロトフだけでは回らない諸々の手はずをカミューが指揮して調整を繰り返し、困難の一つ一つを解決した

マイクロトフのみでは到底補いきれない大仕事だとわかっていたからこそ、敢えて相談役として、期限付きの片腕の一人として奔走した

裏からの手はずも取引も、マイクロトフに事前に説明をし、了承を得た

内部の透明化こそが、信用を得る第一歩だったからだ

マイクロトフは生来策謀などを苦手とし、交渉は飽くまで戦術の上でしか用いない

対人の場面や組織の中ではやはり駆け引きが重要であったので、その役割分担が必要だったからだ

マイクロトフは万能ではない

だからこそ彼を補佐し、時に矢面に立って議論できる人材が要る

部下ではなく、共に築きあげることのできる気骨のある騎士たちが

カミューは色の区別なく、それが可能となる現役の騎士や元騎士たちの人選を行って登用した

最高位はマイクロトフだが、青年自身は独裁を嫌う

マイクロトフは時に熱弁を振るうが、頭に血が上って見境がなくなることはない

彼は自身の剣に懸けて誇り高き騎士であることを信条とし、彼の心身は民衆を守るために存在する

人間関係を重んじ、謙虚で礼節をわきまえ、人々を守るという大義の前には私情をころせる騎士だった

他者への強制を殊の外きらい、相手がうんと言うまで妥協をしないし途中で投げ出しもしない

大体はマイクロトフの相手が根負けをするか、その志を汲んでくれるかして折れるのだから、まったく裏工作の必要がない稀有な人物だった

しかし、順序の省略、彼の負担を軽減するためには、立ち回りのうまさも有用になる


このまま自身が彼の側でサポートを続ければ、安泰だったのかもしれない

けれど、自分もマイクロトフも先を見ていた

統一戦争で活躍した英雄たちも、時代が過ぎればいずれ忘れられてゆく

名をほしいままにしたかつての勇者が驕り、誤った道を歩み、部下や仲間や民衆の手にかかって非業の、自業自得の結末を迎えた事例も多い

幼い頃から本の虫だったマイクロトフはよく口にしていた

彼を真の意味で騎士の鑑と言わしめたのは、そうした伝記の類から自らを戒めることを常に知っていたからだ

だからこそ頭が硬いし、一本気に一つのことに専心し、最後までおのれを貫けるのかもしれない


カミューはマイクロトフに、グラスランドの一領地であるカマロと国交を持つ気はあるか?、と尋ねた

マイクロトフもそれを予期していたのだろう

ああ、と深い頷きとともに肯定が返った


マイクロトフにとっても同じ騎士の名を頂く自由騎士団には興味があったようだ

交流して交易や和平は疎か、騎士同士の意見交換や留学などの行き交いが活発化すれば良いと考えたからだ

領主を君主として持たない自治権を持つ正規の騎士団とその連合というのは、やはり珍しい


そうでなくてはな、と思うと同時の、離れがたい感傷

カミューはロックアックスを後にしたら、故郷に骨を埋めるつもりだ

その真意は、もしマイクロトフが昔の自身の言葉を覚えているのだとすれば、自然と伝わったはずだ


私はもう二度と戻らない


グラスランドに帰るということは、そういうことだ



「カミュー」


マイクロトフは最高職である白の長衣に身を包み、立ったままでいる

男の前では、彼一人が席につくことはない

それがマイクロトフの親友に対する正直な態度と意志だからだ


「今、俺たちが手がけていることを中途半端にしてはおけん」


カミューが請け負っていた部門の管理や業務の引き継ぎもあるだろう

それまで出立の日を延ばしても良いか、と尋ねてきた


「今すぐに実家へ帰るつもりはないよ、マイクロトフ」


おまえの気が済むまでここにいる

見届ける役目は、自分にしかできないだろう?、とカミューは言った

いつもの余裕のある笑みを口元に載せると、青年は、そうだな、と頷いた



別れは、もうすぐそばまで来ていた


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タグ:カミマイ
posted by 水堂とらく@はりこのとら紙老虎 at 10:38 | 日々の更新2025
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