★★★
水堂とらくファン作品・空の民草の民シリーズより
幻想水滸伝2【カミマイ】妄想2
カミュー×マイクロトフ
前を征く意義
難しい本を読んでいるな、と言われ、言葉をかけられた当人は是とも否とも答えなかった
「そう言うマイクロトフは、ここにある書籍を全部読破し終えているんだろう?」
団長の任に就いてから勤務時間外に読み漁ったそうだが、辞書を片手に、先代の補佐役の何人かに手伝ってもらいつつ内容を確認しながら懸命に読み進めたらしい
「読みはしたが、覚えている内容は大凡だ」
隅々まで熟知しているわけではない、と手にした紙面を見ながら丁寧に答える
重要な部分だけを掻い摘んで覚えているというのは謙遜ではない事実なのだろう
どこに何が書かれているのかを把握していれば大体の調べ物はできると
ふむ、と、明るい茶頭の少年は、青年の言に素直に納得した
「では、私はこいつらの全てを頭に叩き込むことにしよう」
聞くなり、執務机に座っている部屋の主であるマイクロトフはあからさまに閉口したが、しばらくの間思案したのちに、おまえならやれるだろう、と大様に頷いた
カミューならば、と付け加えて再び手元の報告書に目を通す
「俺も負けず嫌いだが…」
カミューも相当だな、とペンを走らせながら男は言った
「それは、当然」
成人男子より年齢的にも肉体的にも見劣りをする背格好の少年は、異国譲りの大人びた面差しで平然と答えた
執務室に設えられたソファの上に腰掛けて分厚い書物をパラパラとめくる『カミュー』が言うには、自らは常にマイクロトフの一歩前を進んでいなければならないらしい
烈しい対抗心を抱くのも、マイクロトフに限ってだ、と説く
「要するに、俺だけが成長することが気に食わないということか?」
いや、とカミューは即座にマイクロトフの見解を否定した
誤解されたくない、と感じたからだ
少なくとも、目の前の友人にだけは
「マイクロトフは自分でできると過信して、何でも背負い込んでしまう傾向にあるだろう?」
だからそれを的確に手助けすることのできる手腕と知識と知見と、あらゆる手管が自分には常に必要であるのだと
だからマイクロトフより勝る頭脳、見識、剣の腕、技量、人脈の何もかもが不可欠であると
マイクロトフをライバル視している理由には、そのおかげでカミュー自身も成長できることは事実だが最終的な目的はそこにあるということを正直に明かした
決して、嫌っているからマイクロトフの目の前に壁となって立ち塞がろうとしているわけではないと
「マイクロトフの力になれなければ、それ以上の存在でなければ、私には意味がないんだよ」
「…………」
カミュー…、とマイクロトフは思わず名を呼んでいた
しかしその先は続かず、紙面の上に音もなく目線を落とす
「無理に言葉にしなくていいよ、マイクロトフ」
倦怠期というわけではなかったが、騎士になってからというもの、カミューとマイクロトフの間では親密な交流というものが絶えて久しい
憎まれ口を叩くのも、取り付く島がないことも、対応がおざなりになってしまうのも、マイクロトフが青の騎士団を代表する立場になったためだ
この領内では騎士団それぞれに役割が決められ、相互扶助ではなく上から下へ厳しい統制が敷かれている以上、易々とその垣根を超えてはならない
赤騎士団長であるカミューは勝手知ったる何とやらで軽い足取りで堂々と青騎士団が詰める部署に足を踏み入れるが、その逆はあってはならない
そして会話も、簡潔かつ速やかに行わなければならない
ここは子どもらが集うお遊戯の場ではないのだから
「…俺は随分カミューにつらく当たっていると自覚しているが…」
士官学校時代からの親しい間柄であるはずなのに
申し訳ないを通り越して、もはや達観しつつある、と言外に含ませ、マイクロトフは彼らしくもなく押し黙った
「今くらいの塩対応で十分だと思うけど?」
下手に出て馴れ合えば付け上がらせるだけだ、と我がことであるのにカミューはきっぱりと言い切った
それにはさすがにマイクロトフと言えど、大人のカミューに同情したくなった
しかし、白騎士団の上層部への牽制の意味もあるのだし、異なる騎士団の代表者同士が仲良しこよしをアピールする必要はない
少なくとも、奴らの眼が届く範囲では
独白のようなカミューの言葉に、マイクロトフはゆっくりと頷いた
「…そうだな」
上司の目を盗んで密会をしようにも、マイクロトフはそんなことが出来る器量ではないしね、とにべもなくカミューは放言する
視線は本の中身を食い入るように見つめているが、考えていることはまた別なのだろう
器用で聡く、昔から向学心と独立心が強い
負けん気もあり、保身など顧みず、心底からは誰にも媚びない
このカミューを見ていても、良質の強い革で作られた、しなる鞭のようだとマイクロトフはつくづく思う
簡単には手折れず、手のひらに一見馴染むと見せかけて、鞭の扱いは誤れば使い手の全身をも容易に傷つける
見た目以上に非常に危険で厄介な代物なのだが、味方であれば心強い
自分などよりもよっぽど処世術を心得ているので人当たりもいいし、誰に対しても社交的なので文句のつけようがないだろう
言っている中身は辛辣であったが、実際に事実なのだろうな、とマイクロトフは珍しくその口元に苦笑を浮かべた
「…やはりおまえはカミューなのだな」
口中で小さく呟き、青の騎士団長は再び政務に没頭した
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