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2025年05月24日

【カミマイ21】故郷からの来訪者

昨日『犬夜叉』のコミックを読破し終えて(やっと…)
最近何度も読み返しているのは『半妖の夜叉姫』なんですが
まだコミックが短いから読めるのですが、これが50巻とかになったら
何度も読み返す行為自体が難しくなるので
可能であれば、一部二部とかコミックの
タイトルを変えてくれるといいのかな…と思いつつ…
同じシリーズを長く続けると読み手側が疲れてしまうので
大変だな…と思ったり

某『ワンピース』は100巻まで買ってとまりましたが
本当にここまでくると、完結するまで買わないという選択肢も出てくると思います

自分のオリジナルの受メンコミックも
完結するまで買わないという選択肢も大様にしてあると思いますので
(ネーム自体はもう完結まで手元にあるのですが)
なんかもういろいろとブーメランもある
続きもののコミックに関しての感想だったり…

作者が急逝されて未完で終わったコミックも小説もあるので
やっぱりどこを切っても金太郎あめ…ではないですが
きっちり区切りよく終わって、終わって、…を繰り返すのも
シリーズ物の一つの案ではないかと感じました

永遠に続ける、というのは、作者の遺志をチームで引き継ぐことはできても
読者が永遠ではないので(苦笑)無茶や…と思ったりすることもあったりなかったりです

ということとはあまり関係はないはずですが
カミマイの『空の民草の民』シリーズは徐々に完結へ近づいております…!

★★★

水堂とらくファン作品・空の民草の民シリーズより


幻想水滸伝2【カミマイ】妄想21

カミュー×マイクロトフ

故郷からの来訪者



おや、とカミューは自身の私室で珍しいものを見つけた


懐かしい、グラスランドで使われる公用文字のひとつだ

紙片の表と裏一杯に所狭しと書き込まれている

インクが乾かないうちに何度も書いてはその上に文字を重ねたので、所々に穴が空いており、もはや誰が見ても一様に口を揃えて紙ごみと呼ぶべき物体と化していた

何者の仕業であるのか、男は正しく理解をした上で、久しぶりだねとその犯人に声をかけた


勝手に使ってすまない、と小さな影から声が届く

カミューの机の引き出しから、彼に当てて届けられた書簡を取り出し、そこに書かれた文字を写し取っていたらしい

そもそも意味がわからないのではないかと思ったが、事実そうであったらしい

あとで訊こうと思っていた、と机の前の椅子の上から正直に答える

カミューは思わず苦笑した


「筆跡は誰のものかわかるかい?」


小さな頭のマイクロトフの隣に覆いかぶさるようにして机上に肘をつき、その顔を覗き込む

すぐにかぶりが振られたのを確認し、カミューは手紙の中の一節を読んだ

男の妹の名がその中にあることに気づき、あ、と少年は思い至ったらしい

彼女だ、と言って、しかし同時に首をかしげる

あまりよくは彼女のことを覚えていないらしい

どういういきさつやからくりがあるのかは不明だが、時折カミューの元に姿を現すこの幼いマイクロトフの姿をした少年は、親友と同じ名前と、おそらく彼に近い思考を持っていた

深く追求をしなかったのは、どこをどう解釈しても彼が誰に対しても無害であることと、カミューの生き方や方針にその存在が何の影響も与えなかったからだ

たまに来て、話をして、お茶を飲んだり、時には外へ一緒に出かけたりする

お守りをしているという認識がカミューの中にあったわけではなかったが、ロックアックスで赤騎士の団長を務めていた頃は、せがまれてよく城内を散策したものだ

マイクロトフは男に手を引かれたまま物珍しげに、自分が統括しているだろう青騎士団の詰める館内を眺めているだけだったので、カミューにとっても気分転換にはなっていた

団長としての責務を果たす大きい方のマイクロトフとも会っていたはずだが、予想通り、自分以外は感知できないものの類であるようだ

当初は疲れて幻覚でも見ているのかと考えたが、ひたむきでその上邪気もないことから、もう自然とそういう客人なのだと解釈して受け入れてしまった

その上、小さいマイクロトフは自身にひどく同情的で、何かあるたびに、その言動からは慰めるような必死さを感じた

青年騎士であるマイクロトフがこちらに素っ気ない、他人行儀な態度であれば、何だあれはと腹を立てるし、なじったりもする

大事な親友に対する態度ではないとカミューよりも先に非難をするので、大人気なくこちらが怒る気にもなれない

カミューが感情的になる前に先手を制されているようでもあり、文字通り少年によって慰められている印象だった

ゆえにこの少年の存在は、カミューにとって不思議で奇特な、そして明らかに害のない友だと言えた



「マイクロトフは、私と私の母のことは覚えているんだね」


以前、大分昔の話になるが、彼女の誕生日の贈り物を共に選んだという奇妙な経緯がある

しかし、カミューの兄妹たちに関してはよく覚えていないようだ

ほぼ記憶から欠如しているらしい

…おかしなことだが


マイクロトフ当人は自分の故郷で暮らした経験があるということだろうか

もはや詮索をする気がないので、どんな事情があっても別段驚きはしないが

子どもが好きな対象の名前だけを鮮明に覚えているということは、確かにあるのだろう

好きな、というものの中に、自分の名が含まれていることは光栄だったが


「マイクロトフは、帰りたいと思うのかい…?」


抽象的な問いかけだったが、少年には伝わったようだ


「今はまだ駄目だ」


カミューが心配で、と継ぐ


「私が?」


わずかに目を見開いて少年の頬に視線を当てると、懸命に文字を写生しながら小さな友人は言った


「カミューはまだ、俺のことを気にかけているのだろう?」


だから、心配だと言う


毎度のことながら、重要な部分が完全に欠落している回答だった

けれど具体的ではないおかげで、余計な波風が立たずに済む

思いつきで答えれば、それが答になる

そんな問答だった


「…もはや、習性に近いだろうね」


マイクロトフの身を案じるのは


うむ、とまた小ぶりの頭が頷いた


「俺は石頭なので、カミューには迷惑をかける」


そう言って見上げてくる少年の頬を、カミューは手袋を脱いだ手で優しく撫でた


「あいつにも、マイクロトフほどの殊勝な心がけがあればね」


明らかな皮肉だったのだが、少年ははたと思いついたようだ


足が届かなかった椅子から飛び降り、ばたばたと急ぎ足でドアへ向かう

小柄な姿態が纏う腰帯のない大きめの衣服が、動きに合わせて波のように揺れた

また来る、と言って、カミューの見送りの言葉を待たずに開いた扉の奥へ吸い込まれるように消えてしまった


慌ただしいことは今に始まったことではないので、若干呆れつつも、カミューは笑い出したい気分にとらわれた

少年が残していった書きかけの用紙とペンを元の位置に戻し、引っ張り出された家族からの書簡を片付け、上着を脱ぐため寝室へ移動しようとしたその耳に、ノックの音が届いた

今日はおとないが頻繁らしい


「俺だ」という明瞭な一言だけで、カミューは即座に踵を返した

ジャケットは無造作に机の上に放り投げて


部屋のぬしが扉を開ける動作の一部始終を見守っていた青年の顔を見るなり、カミューの相貌には自然と笑みが刷かれた

そこに見つけたのは、仕事着を脱いで私服に着替えた長身の仏頂面だったからだ

本人にその意識はないだろうが、綺麗に短く切り揃えられた頭髪の下で口を噤んでいると、少々虫の居所が悪そうに映る

けれど目配せをするように視線がかすかに動くと、途端にそれが偶像であったということを見る側に知らせる

黒く濃いまつ毛で縁取られた目元は、凛として艶があり、美しい

男にこの形容を当てはめる行為自体が不遜だと思ったが、マイクロトフはカミューの中で賞賛に値する特別な容姿の持ち主だった


その口で、実家から、と青年は挨拶もなく切り出した


「俺の実家から、執行部宛に酒が届けられていたのだ」


カミューに手渡すのを忘れていた、と訪問の理由を淡々と語る


入口での立ち話も何だから、と言い、室内へ招こうとすると、マイクロトフはためらった

明らかな拒否ではなかったが、すぐに戻るつもりだったのだろう

このあとに予定でもあるのかと問えば、特にないとの返答だった

時間があれば馬の様子を見て、見回りをしてから外で夕食にありつこうと考えていたと

欠かさず街を見て歩くのは、もはやマイクロトフの日課だと言っていい

酒の贈り主についてもついでに問うと、妹が、とわずかに言い淀みつつ最後まで答えた


「仲良くなった騎士がいるらしい。その延長だ」


今回の贈り物の理由は、と

延長上であるとの意味は、お目当以外にも贈ることで本命があきらかになるのを誤魔化した、という主旨なのだろう

周囲に悟られないための、撹乱作戦

彼の実の妹御も所謂適齢期になったのか、と思わずカミューは内心で感嘆した

生まれつき身体が弱く、マイクロトフとは離れて暮らしていたが、その彼女が騎士団で良い相手を見初めたらしい

話もなく勝手に…、と一瞬マイクロトフは兄らしく不満な顔つきになったが、さすがに身内に関わる話題だったので態度を改めた

事情を正確に理解し、マイクロトフが持参した酒瓶を恭しく受け取った後、カミューは、では、と断ってから自身の意思を表明した


「私がおまえに、今夜のお付き合いを申し込んでも?」


構わないかと尋ねると、夜は久しぶりに空いたのではないか?、と逆に問い返された


城勤めはいつものことだが、私的な時間の確保はお互いにまだ難しい

貴重であるならばいっそ、心許せる相手と過ごしたい

そう正直に本音を明かすと、マイクロトフは少し虚を突かれたような眼をして黙り、そして言った


「俺もだ」


俺もカミューと過ごしたかった


あの少年が見せた混じり気のない心と同様の恋人のその純な言葉に、カミューは心底から歓迎の意を示した


腕を伸ばし、引き寄せる


抱きしめた体に、自分の体温が直接伝わるように

何度もなんども、マイクロトフの米神に口づけた


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2025年05月23日

【カミマイ20】忘れじの空

カミマイ(赤青)本の再録というか
どうしようかなと思いつつ…
空の民草の民シリーズも長いし
ホワイト・ゴーストも長いし…
馬王子は雑ネタだし…という感じで悩む今日この頃です…!

★★★

水堂とらくファン作品・空の民草の民シリーズより


幻想水滸伝2【カミマイ】妄想20

カミュー×マイクロトフ

忘れじの空



故郷から仕官しないかとの誘いを受けている

抑揚なく発された男の言葉を、マイクロトフは静かに聞いた


カミューの生まれであるカマロ自由騎士団領については、度々話を聞いている

そして男がいずれはそこへ帰ることも

騎士になる以前から決めていたことで、故郷を離れたカミューがロックアックスに単身で訪れたのは正騎士としての称号を得るためだ

騎士という身分を抱える国は他にも幾つかあるが、領地の内外でその存在を認められ、身の保証となるような正式な官職や役職として通用するところはさほど多くない

世の中には、後ろ盾のない自称であったり、あるじを持たない信条だけの騎士もいる

マチルダ騎士団も、組織として独特の設立と遷移の歴史がある

土地とその領民、そして都市同盟のために、騎士たちだけで作られた自治の象徴

三つに分かれる騎士団で構成された形態そのものに、幼いカミューは興味を引かれた

そこへ仕官し、正式な騎士としての地位を得て、おのれの力を試す

とはいっても高潔な志だけでなく、三つある騎士団とやらの一つに食い込み、名を挙げたいとの野心ももちろん少年の頃のカミューにはあった

次男坊ゆえに一家のしがらみも少なく、それゆえふるさとでの存在意義というものがカミューにとって希薄だった所為だろう

どこへでも自由に行って、職を探し、安定してからは家族を持って暮らせばいい

ただ、自身がどこまでやれるのか、カミューにとっての力試しの意味も当然あった


明らかな目的を持って訪れた城塞都市ロックアックスで、カミューはマイクロトフと出逢い、彼という素直な魂に惹かれた

風土を象徴するような純粋な黒に最初は目を奪われたが、マイクロトフの中に土着の騎士であるマチルダの根源を見たからだ

騎士になるために生まれたような、というのは過言であったが、マイクロトフは彼の尊敬する祖父の姿を追い、追い越そうとひたむきに努力を積み重ねる少年だった

当時は背丈もなく、大きな目とあたたかい手のひらと丈夫な骨格を持つ、少し頑固なところのあった一つ年下の彼が、カミューの初めての異郷の友人となった

マイクロトフは、特に世話焼きだったわけではないのだろう

士官生にあてがわれた宿舎を管理する上官から気にかけるよう頼まれたと出逢ってすぐに理由を明かしたが、長男としての生来の責任感の強さからか、カミューが慣れない土地や習慣に難儀をしないよう彼なりに便宜を図ってくれた

それこそ毎日、顔をあわせる都度、色々なことを話したと思う

日常や非日常の些細なことから、将来の在り方、身の振り方のことまで

色恋に疎い朴訥な、わるく言えば面白みに欠けるマイクロトフとは、艶っぽい話をあまりしたことはなかったが

カミューはマイクロトフを快い存在だと感じ、彼の真白の肌と黒髪と真っ黒な珠玉の宝石を愛した

真っ直ぐに視線を伸ばし、常に真正面から対峙する、その頑なな魂を愛した

彼の中には、カミューにとっての果てしない空があった



空はここにある


いつかマイクロトフから聞いた言葉だ

ロックアックス城の天辺で、まだ肌寒い時期であるにも関わらず晴れた蒼天に片方の腕を伸ばし、見習騎士だった時分、故国を別にする友にマイクロトフはそう答えた


ロックアックスの城は、彼にとっての空だった

だから決して手の届かぬ、遠い存在ではないと

ロックアックスとマチルダという名と象徴は、マイクロトフの心そのものだった




マイクロトフはカミューの言を受けて、少し思案したようだ

カミューにも、その心が伝わる

長年、ツーカーの仲でやってきただけのことはあるのだろう


「…カマロ自由騎士連合か」


グラスランドに存在する自治領の一つだが、歴史はある

マチルダとは異なるが、同じ騎士を輩出する国だ

どちらが上であるかという議論よりも、同業者的な意識をマイクロトフは持っていたらしい

故郷の手紙でも度々同じ内容が添えられていたので、今の情勢についてもカミューはよく理解していた

両親の息子を呼び寄せたいというささやかな意思を感じ取りつつ、そろそろ身を固めても良いのではないかとあちらは考えたのだろう

元々戻る方針でいたカミューには、好きにしてよいという親の気持ちと、息子の身を思う親心の二つが見え隠れする

無論、カミューとてここまでロックアックスに長居をするつもりはなかった

伴侶や家族をここで得たとしても、彼らを連れてグラスランドに帰る気でいた

要は、デュナン統一戦争が収束してしばらく経ち、そろそろ良い頃合いだろうと考えて、向こうから打診をして来たのだろう

その事実を隠すつもりはなかったので、カミューはマイクロトフとのいつもの会話の中でそのことを切り出した

もしここが食堂などの公の場であれば、日常会話として流されていただろうが、そこはカミューとマイクロトフが詰める政務室だった

カミューは元赤騎士団長として、今は期限付きの相談役の一人としてマイクロトフをサポートする任に就いている

なぜそんな抽象的な役に就いたのかという、その理由は簡単だ

マイクロトフが請け負った最高責任者の座の一つに権限を集約させるためと、騎士団の分断を阻止するため

大きく環境が変わった騎士団内部の派閥争いを抑え、一枚岩となる必要があったためだ

その目的を果たすために、カミューとマイクロトフはかつて三つに分かれていた騎士団の間を行き来し、伝手を広げて信頼できる人材や人員を確保して来た

協力が得られるまで粘り、現状を正しく理解した上で、根気強く交渉を続けた

そのために、彼らがえがく未来というものを具体的に組み立てて組織し、騎士たちの前に提示しなければならなかった

マイクロトフだけでは回らない諸々の手はずをカミューが指揮して調整を繰り返し、困難の一つ一つを解決した

マイクロトフのみでは到底補いきれない大仕事だとわかっていたからこそ、敢えて相談役として、期限付きの片腕の一人として奔走した

裏からの手はずも取引も、マイクロトフに事前に説明をし、了承を得た

内部の透明化こそが、信用を得る第一歩だったからだ

マイクロトフは生来策謀などを苦手とし、交渉は飽くまで戦術の上でしか用いない

対人の場面や組織の中ではやはり駆け引きが重要であったので、その役割分担が必要だったからだ

マイクロトフは万能ではない

だからこそ彼を補佐し、時に矢面に立って議論できる人材が要る

部下ではなく、共に築きあげることのできる気骨のある騎士たちが

カミューは色の区別なく、それが可能となる現役の騎士や元騎士たちの人選を行って登用した

最高位はマイクロトフだが、青年自身は独裁を嫌う

マイクロトフは時に熱弁を振るうが、頭に血が上って見境がなくなることはない

彼は自身の剣に懸けて誇り高き騎士であることを信条とし、彼の心身は民衆を守るために存在する

人間関係を重んじ、謙虚で礼節をわきまえ、人々を守るという大義の前には私情をころせる騎士だった

他者への強制を殊の外きらい、相手がうんと言うまで妥協をしないし途中で投げ出しもしない

大体はマイクロトフの相手が根負けをするか、その志を汲んでくれるかして折れるのだから、まったく裏工作の必要がない稀有な人物だった

しかし、順序の省略、彼の負担を軽減するためには、立ち回りのうまさも有用になる


このまま自身が彼の側でサポートを続ければ、安泰だったのかもしれない

けれど、自分もマイクロトフも先を見ていた

統一戦争で活躍した英雄たちも、時代が過ぎればいずれ忘れられてゆく

名をほしいままにしたかつての勇者が驕り、誤った道を歩み、部下や仲間や民衆の手にかかって非業の、自業自得の結末を迎えた事例も多い

幼い頃から本の虫だったマイクロトフはよく口にしていた

彼を真の意味で騎士の鑑と言わしめたのは、そうした伝記の類から自らを戒めることを常に知っていたからだ

だからこそ頭が硬いし、一本気に一つのことに専心し、最後までおのれを貫けるのかもしれない


カミューはマイクロトフに、グラスランドの一領地であるカマロと国交を持つ気はあるか?、と尋ねた

マイクロトフもそれを予期していたのだろう

ああ、と深い頷きとともに肯定が返った


マイクロトフにとっても同じ騎士の名を頂く自由騎士団には興味があったようだ

交流して交易や和平は疎か、騎士同士の意見交換や留学などの行き交いが活発化すれば良いと考えたからだ

領主を君主として持たない自治権を持つ正規の騎士団とその連合というのは、やはり珍しい


そうでなくてはな、と思うと同時の、離れがたい感傷

カミューはロックアックスを後にしたら、故郷に骨を埋めるつもりだ

その真意は、もしマイクロトフが昔の自身の言葉を覚えているのだとすれば、自然と伝わったはずだ


私はもう二度と戻らない


グラスランドに帰るということは、そういうことだ



「カミュー」


マイクロトフは最高職である白の長衣に身を包み、立ったままでいる

男の前では、彼一人が席につくことはない

それがマイクロトフの親友に対する正直な態度と意志だからだ


「今、俺たちが手がけていることを中途半端にしてはおけん」


カミューが請け負っていた部門の管理や業務の引き継ぎもあるだろう

それまで出立の日を延ばしても良いか、と尋ねてきた


「今すぐに実家へ帰るつもりはないよ、マイクロトフ」


おまえの気が済むまでここにいる

見届ける役目は、自分にしかできないだろう?、とカミューは言った

いつもの余裕のある笑みを口元に載せると、青年は、そうだな、と頷いた



別れは、もうすぐそばまで来ていた


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2025年05月22日

【カミマイ19】戦いのあと

昨日ようやく、壊れた洗濯機の代わりの新しい洗濯機が届きました…!
容量は以前と同じなのですが、ほんとにスリムになったというか…
昔の洗濯機よりも余計な部分をそぎ落として
掃除がしやすくなったのかなぁ…と思いつつ
お風呂の水を活用するタイプではなかったので
別売りでポンプを購入することになりました

そして、カミマイは今日の更新から
いよいよ佳境に入るのかなぁ…と思います

引き続き読んでいただけるととてもうれしいです…!

★★★

水堂とらくファン作品・空の民草の民シリーズより


幻想水滸伝2【カミマイ】妄想19

カミュー×マイクロトフ

戦いのあと



デュナン統一戦争が終わり、ロックアックスで待っていたのはマチルダ騎士団の再建という大仕事だった

すでに予想していたことであったとはいえ、マチルダに属する騎士を一人残らず掬いあげた上で改革を実行するのは並大抵の作業ではない

離反側についた者、ゴルドー派、中立派、そしてゴルドー監視の下で謹慎や蟄居を命じられていた元騎士など

赤青白の騎士団の垣根にこだわらず、マイクロトフはカミューとともに編成案を作り、練り、事ある毎に吟味して意見をぶつけ合った

とにかく情報の量が足りず、各所に足を運んでは騎士たちの処遇と今後の配属について奔走し、時間を尽して話し合った

一から作り上げるのと、壊れたものを拾い上げてすべてを丸く収めるのと、どちらが楽かと問われれば断然前者だ

しかしマイクロトフはマチルダ騎士団にこだわり、その名を維持することで騎士たちと領民たちの身の安全を図った

自身もそれに異論はなかった


思い返すだけでも、本当によくやったと思う

不和がないように人材を振り分け、能力と経歴を見比べて適所に配置する

騎士団が再建されるまで青騎士のまとめ役として最高責任者の位に就くことを辞退していたマイクロトフは、カミューとともになんとかそれをやり遂げた

それでも地盤が固まり騎士団内部が安定するまで数年はかかるだろうと言った青年の顔には疲労感が滲み出ていたが、カミューが居てくれて良かったと、心からの謝意を伝えてきた

その様をわずかに眩しげに見返しながら思った

彼は確かに数多の功績を挙げ、一騎士団長から最上位へと上り詰めたが、果たしてそれが正解だったのか

永遠に手の届かない存在になってしまったのではないか

正しいことだとは頭で理解しつつも、後悔がそこになかったわけではない

そう思った



自分はマイクロトフを手に入れたかった

現時点でも肩を並べることのできる唯一の、稀有な存在である事実は認めよう

高め合い競い合う好敵手として常に傍らで、彼の一歩前を征き、道を切り開く友でありたかった

同時に、如何ともし難いかつえを身のうちに抱いたまま、マイクロトフ一人を高い位置まで押しやった


カミューは後悔していた

そして後悔していなかった

マチルダを維持するためにはマイクロトフは不可欠だろう

少なくとも、この変革の時期と、しばらくの間は


後悔は、その言葉の次に興るものだ

だが、と


抱きたい、手に入れたい、おのれだけのものにしたい

現実はその欲求とは真反対であるからこそ、カミューはわずかであれ悔いていた



多忙を極める互いに、時間は残されていないことを正確に理解しながら


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2025年05月21日

【カミマイ18】有色の日常

洗濯機がようやく今日届く手はずなのでワクワクしつつ
…早くお洗濯がしたいです^^;

ということで、今日は病院へ通院してきます…!
天気が晴れたり雨が降ったりと色々ですが
どなたさまもつつがなくお過ごしください…!
カミマイの完結まで、あと10話…!

あ、あと、原稿作業中に過去の赤青作品を発掘できたものについては
どこかで公開できればと思います

空の民草の民シリーズはもしかするとすべて再録できるやもしれませんが
内容的に…というか文字数的に非常に長いです!
HPの更新アプリが手元にないのでサイトに載せることもできず…
悩みますね……うーん…!

★★★

水堂とらくファン作品・空の民草の民シリーズより


幻想水滸伝2【カミマイ】妄想18

カミュー×マイクロトフ

有色の日常



カミューから指摘されるまでもなく、マイクロトフはサウナが好きだった

水風呂はどちらかと言えば苦手だった

全身の肌がふやけるようだし、個々で水温の好き嫌いがあるし、湯船に浸かったままでじっとしている時間が無駄のように思えたからだ

同盟軍の居城であるデュナン湖のほとり、マチルダ騎士の駐留場所にサウナが設置されて以来、マイクロトフは可能な限り就寝前にはそこへ行くようにしていた

たまに午前中の任務が終わるとその足で向かうこともある

自分一人しかいない時は静かに目を閉じて熱さを感じて滲んでくる汗を堪能し、前後に人が居合わせた場合は彼らと簡単な話題で盛り上がった

サウナはマイクロトフにとって小さな社交場だった

そして何よりも喜ばしかったのは、垣根があると思われていた赤騎士たちからも話を聞く機会が増えたことだ

カミューについての噂もよく耳にする

今でもやり手だと評判で、若い時分から種々の戦功と戦績を挙げていたので団長の任に就く前からの有名人だったと

もちろん過去には手痛い失敗もあったが、元々気が利くということで周囲の覚えがめでたかったし、円滑な組織の運営の手腕に関しては皆一様にその成果を褒め称えた

無論、騎士として剣士としての技量や腕に関してはその役職に恥じないくらいカミューは強い

士官学校時代の同期だったマイクロトフが公言するくらいだ

カミューの場合は強いと言うより巧みだ、と表すのが適していたかもしれない

あれは元々喧嘩慣れをしているのだろうと、マイクロトフは昔から考えている

戦いの駆け引きがとにかく旨い

状況判断が教本通りではなく、文字通り手慣れている者の動きだった

しかも、抜群に運動神経がいい

高位の紋章を扱える資質もさることながら、やはり騎士としては自分よりも一段上にいる人物なのだろうとマイクロトフは思った

しかしそれゆえに鍛錬の指導者としては、幼い頃からから祖父の手ほどきを受けていたマイクロトフほどには適さない

カミューの高度すぎる技術について理解して実践できる者が赤騎士内でほとんどいないというか、伝わらないというか、要するにお手本にならない

精々紋章に関する知識と実践の話を交えて、使いどころや戦術を指南するくらいが向いていた

カミューは多方面で努力家である一方で、個々の戦闘に関することに対しては天才というか秀才なのだろうと、マイクロトフなどは思う

生まれがそもそもロックアックスではないのだから、長短がそれぞれにあって然るべきだとも考えた


赤騎士たちからカミューの話を聞いて、部下たちに対して手厚いのだな、とマイクロトフは実感した

組織の長として気遣いもしっかりしており、細部への声かけも頻繁で、そのやり方も嫌味がないし、指示や説明も丁寧でわかりやすい

嫌な素振り一つ見せずに淡々と実務をこなすし、上下への対応にも差がないし、受け答えがさらっとしており、熱くなる場面が一切ない

加えて、理解力に優れている

それゆえに下からは慕われているという

実際のカミューはな…、と言い募りたい気持ちを抑えつつ、マイクロトフは良い気分で親友である男の評価に耳を傾けた


「われらが団長の話を聞いている時のマイクロトフ様は、実に嬉しそうですね」


ふとそんな感想を聞かされ、マイクロトフはそれは当然なのではないかと即答した

友を褒められて喜ばぬ人間などいない

そう答えた

相対した側はかすかに驚いたようだったが、青年が冗談ではなく本心から言っていると認めたようだ


「…カミュー団長は、この地に来てからよくマイクロトフ様のお話をされるようになりました」


「…………」


一瞬言葉に詰まったが、そうか、と答えたマイクロトフの相貌には、意識せずに笑顔が生まれた

専ら仕事の場面では堅物だと表されるが、裸になってしまえば肩肘を張っていても仕方がない

自然と漏れた笑みに、赤騎士たちは青騎士団長に親しみやすさを覚えたかもしれない

それくらい、サウナでのマイクロトフは素直だった




カミューが変わったことに、赤騎士たちも気づいていたか


身近に接する上司なのだから、当たり前かと思い直す

マイクロトフ自身も、城を出たカミューの変化を強烈に感じている

物腰がさらに柔らかくなった上に、何というか、盛大に余裕がある

本部での会議があって、その帰路、遅い昼食をデュナン城の酒場で共に摂った時も、あれやこれやとマイクロトフの世話を焼いていた

少々うるさくはあったが、カミューの声は耳に優しい

それが本来のカミューという人間であることを昔から知っていたので、マイクロトフは男の好きにさせた

カミューがしたいことをさせ、自分もやりたいようにやる

たまに喧嘩腰になりそうになるが、カミューは終始機嫌よさげにマイクロトフを見る

自分が親友を誰に憚ることなく独占していることに悦を感じているのかもしれないが、それはお互い様だ

二人で居られる時間の、なんと温かいことだろう

人目があっても構わず顎に指を伸ばしてこちらを振り向かせる行為は行き過ぎだと思うが、いちいち目くじらを立てるのも疲れてしまった

カミューのさせたいようにさせる

どうせそれ以上のことはできないのだから


ただ、これが束の間の出来事であり、戦いの最中のほんの一コマでしかないのは事実だ

明日はどうなるかわからない

だからこそ、今を大切にしなければならない

一歩一歩を踏みしめるように

この先に、自分たちの未来があると信じて





「…おかえり」


執務室の前で待っていたらしき影に、マイクロトフは顔をしかめる

もはや反射的なものなので、決して向こうを煙たがっているわけではない

今夜もロックアックス式の風呂に入ってきたので、マイクロトフの機嫌は良い

カミューも来ればもっと話が弾んだのだが、と言葉をかけると、そのうちご相伴に預かるよ、と返された

就寝前に、男は必ず挨拶に訪れる

それが互いの日課になりつつある



確かめるように口を合わせ、抱き合う、それだけなのに


マイクロトフは常に思う


どこまで絆されるのか、自分はこの男の熱に


それは存外、わるくない気持ちだった



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2025年05月20日

【カミマイ17】甘い仕返し

右手の腱鞘炎はよくなっているのだけれど
悪化する場合はあっという間になりそうな、そんな感じですね…
おそろしい…

壊れた洗濯機の代わりに新しい洗濯機が届くのを待ちつつ
手で洗濯物を洗っている今日この頃です

★★★

水堂とらくファン作品・空の民草の民シリーズより


幻想水滸伝2【カミマイ】妄想17

カミュー×マイクロトフ

甘い仕返し



カミューは正直、湯船に浸かる風呂は好きだったが、蒸気にまみれるサウナは好きではなかった

生まれ育った故郷のカマロでは、湯に浸かる習慣よりもどちらかといえば水を浴びるか体を拭くだけで済んだからだ

グラスランドの気候は湿度自体が低いので、汗をかいてもすぐに表面が乾いてしまうので日々の不快感が少ない

そのため、昼夜の寒暖差が激しかったのは余談だが


そんなところで生活をしていたのでロックアックスの、特にマイクロトフら青騎士たちの風呂好きというものは、カミューにとってさほど共感できるものではなかった

とはいえ、公然とマイクロトフの裸身…半裸だが、を至近距離で眺めることが叶う状況というのは思いの外わるくない

士官学校時代にもそれらしい施設へマイクロトフに連れて行かれた経験があったが、当初は襲ってくる熱さと目眩に根負けをしてあまり長居をすることができなかった

しかし今のカミューは誰に憚ることもない立派な成人男性だ

頑丈すぎるマイクロトフの比ではなかったが、耐性は十分についている

何度か水風呂に浸かる行程を含めて、最終的にはこざっぱりできるものだなと、今なら思えなくもない

そもそも、自分以外に青年が惜しげもなく半身を晒しているということが我慢ならないのだ

いや、あの一致団結することしか頭にないような脳筋たちから見れば、マイクロトフは店に並ぶ芋と一緒なのかもしれない

それは言い過ぎだろうとは自覚しつつ、マイクロトフのすべてを色目で眺めているのは幸いにして自分だけなのだろうと考える

実際にマイクロトフの体や見てくれは、石工で作られたどこかの美術品の青年像のような、理想的な体型をしている

芸術を能くする人間からすれば、書き写したくなるほど垂涎ものの見事な体躯だ

プロポーションがいいというのではなく、あるところに必要な肉がついて、それがいささかの嫌味のない肌の色をして輝いている

見る者が見るとおかしな妄想しかできなくなる、一種の男らしさの中の色香がある

嗜好を刺激される者しか感じない衝動であるとはいえ、カミューにとってマイクロトフの体はあまり他人に見られたくないものではあった

騎士服ならばマイクロトフの裸体を存分に隠してしまえるが、サウナでは完全な無防備だ

タオル一枚で下肢を覆い、それ以外を恥ずかしげもなく晒したまま、部下である騎士や、最近では居合わせた赤騎士にまで声をかけて話をしていると聞く

現に、これまで接触の少なかった青の騎士団長の噂が側近以外の騎士たちから聞こえてくるようになったほどだ

思ったよりも気さくというか、分け隔てなく話かけてくるとか、意外と表情が豊かだとか、おおらかで優しい方だとか

そんなものは、お気に入りのサウナに入ったマイクロトフの頭のネジが少々外れているからであって、普段と百八十度変わって見えるだけだ

仕事人間であるマイクロトフは、仏頂面で厳格な騎士の鑑と言われるような男だ

公的な場で顔を付き合わせることがあれば、あの時と同一人物なのかと不思議に思うくらいの豹変振りだ

あれがマイクロトフの素だと思われては心外だ

余計なライバルが増えてしまうだけではないか

恋敵が増えたところで、一向に負ける気はしないが


そんな感じに、カミューの小言というか、嫉妬から来る恨み言は尽きることがない

欲求不満だと言われればそれまでだが、あまり面白くない状況ではある

マイクロトフを独占して堪能する暇がないと言えば、その通りだが


やはり欲求不満なのだろう

自らそう結論を出して、カミューは身を翻した


マイクロトフを襲いに行く


そんなことを胸に秘めているとは思えないほど堂々とした足取りで、赤の騎士団長は廊下を突き進んだ




「人払いを」


入室するなり短く宣言をされ、マイクロトフは固まった

用事のために団長室を訪れていた騎士たちも呆然とした

しかし次の瞬間、火急の用かと思い改めて、真剣な表情で退室の礼を取った

マイクロトフは、終わったらすぐに呼ぶ、と言って彼らを退がらせた

こちらも厳しい表をしている

おそらくこれは反射的にしていることで、業務の一環だと捉えているのだろう


「カミュー」


名を呼ぶなり、マイクロトフは椅子の上から立ち上がった

同盟軍内で、現在の赤青の騎士団は同格だ

そうした編成と実務の内容にしたのは、カミューとマイクロトフだ

ただ、戦術の面では得意分野が異なるので、赤と青の両騎士でバランスよく人員を構成、配備し、任に当たらせるように仕向けている


目線の高さが異なる状態での対話は相手への非礼ではないが、どうやらマイクロトフの体には上下関係の是非というものが本能的に染みついているようだ

目上への礼節無くして騎士道は貫けないという、古風なタイプなのだろう


何かあったのか、と、マイクロトフは逼迫したような雰囲気の中で親友に問うた


そんな青年の腰を無造作に捕らえると、マイクロトフはまた固まった


カミューは何をしている?

何をしようとしている?、と、頭の中で疑問符が浮かびまくっているのだろう

その横髪に親友の鼻先が埋められた瞬間、ようやく全てを察したようだ


「乳繰り合っている場合では―――」


その先は、軽く触れたカミューの唇で封じられた

声にならず、マイクロトフが喉で呻く

そういう反応が余計に嗜虐心を刺激することを知らないのだろう

ぶるりと全身が大きく震えたのを確かめてから、カミューはようやく友人を解放した


声が大きいよ、マイクロトフ、と優しく囁かれて、外に見張り番の騎士がいることに思い至ったのだろう

頬や顎にすり寄ってくるカミューの肌や髪の毛を顔を背けることで避けつつ、マイクロトフは声を潜めて言い募った


「何のつもりだ、カミュー…」


忌々しげに、といった風情だ

しかしカミューは取り合わなかった


「おまえに首輪をはめに来た」


またしてもなんのことか、マイクロトフにはすんなりとカミューの言ったことを飲み込めなかった

考えているうちに団長服の戒めを解かれ、カミューの手がその下に滑り込んでくる

あまりにも滑らかな動きすぎて、逆にマイクロトフは反応しきれなかった

あっという間に青の長衣が足元に落ちる

男の手際の良さと素早さに舌を巻く暇もなく、襟の留め具を外され、そこにカミューの温かな吐息と共に舌を感じた

マイクロトフは反射的に身を震わせ、羞恥に思わず歯を食いしばった


「っ何をしている…」


言いながら、カミューの背中の服を引っ張り、引き剥がそうと試みる

腰を抱えられているので突き飛ばすことができず、逞しい身を捩った

面白いように弄ばれていることを自覚しているのだろうか

精悍であるはずの相貌に朱を刷いて、懸命に漏れる声音をころしている様は、カミューの眼からすれば非常に悩ましい

事を荒立てれば外に聞こえてしまうだろうと懸念しているのは明白だ

張り番の担当騎士に気づかれて乗り込まれでもしたら、どう釈明をすればいいのか、考えつきもしないのだろう


「カミュー、とりあえず、場所を」


上半身の急所を男にねぶられながら、マイクロトフは声調を殊更潜めて訴えた


せめて仕切りの向こうで及べ、と言われ、カミューは仕方なく机の前から移動した

マイクロトフが夜に眠るベッドの位置まで来ると、今度こそ相手を寝台の上に押し伏せた


形ばかりだったが、人目からわずかに遠ざけられたおかげで心に余裕が生まれたのか、昼間から盛っているのか?、とマイクロトフは不機嫌な面で漏らした

赤騎士も暇ではないだろうに、と皮肉を口にする


マイクロトフに触れているカミューは、底抜けに機嫌良く笑っている

楽しくて堪らないといった様子だ


「おまえが協力をしてくれれば、手早く済ませることができるよ」


そう言って、マイクロトフの襟を手際よくくつろげる


「協力…?」


もはや抵抗するよりも、何が目的なのかの真意の方がマイクロトフは気になったようだ

首輪とカミューが言ったことを、その頭の中で反芻する

入室した親友のどこにも、そんなものは見当たらない


マイクロトフの心中を察したのだろう

ここに、とカミューは言った

そのまま再び男の熱い吐息を感じて、マイクロトフは息を飲んだ

舌先の滑りを感じ、マイクロトフが無意識に吐息を漏らす


白過ぎる肌の色の所為だろうか?

感度が良すぎるな、と、カミューは一人苦笑を浮かべながら、マイクロトフの反応を楽しむように首筋を辿り、吸っては止まり、長い接吻の旅を繰り返した


しばらくして、マイクロトフは男の真の目的を正しく理解した


なるほど、首輪か……


きっちりと肌の表面に浮かんだらしい所有印の列に満足したのか、カミューは満面で微笑んでいる

これで人前で半裸を晒す気にはならなくだろうと、勝ち誇ったような顔をして


相手の嬉々とした顔つきを下から正視して、マイクロトフはようやく意図を察したようだ


「カミュー……」


呆れていたそれが、徐々に怒気へと変わる

騎士服を着ていれば誰に見咎められることもないその場所は、服を脱げば途端に周囲に悟られる

公然と見せて良い代物ではない

特に、意図を持って何度もつけられたものに限っては


自分を気持ちよく風呂場へ送り出したくないという、そういう魂胆か、と

気づくのが遅すぎだ、と言わんばかりの男の態度に、さすがのマイクロトフも頭に来たようだ


意趣返しとばかりに相手の胸ぐらを掴んで睨みつける

カミューは可笑しそうに笑ったままだ


「おまえにもつけるぞ」


目には目を、と言った途端、その明るく透明な瞳の色が光を得てきらりと瞬いた

いたずら心を刺激された子どものような目つきだった


「それは光栄」


にっと口端が持ち上がり、草原の狼のような笑みを浮かべる


瞬間、マイクロトフは何を言われたのかがわからなかった

しかめっ面のまま、きりりと男らしい眉を更に寄せる

その黒い宝玉のような双眸を見つめて、カミューは鷹揚に笑んだ


「私にとっては勲章だよ、マイクロトフ」


言うなり、どうぞ、と、わざわざ赤い団長服の襟元を片手でくつろげて肌を見せつけてきた男に、マイクロトフは絶句を通り越して唖然とした

要は、同じように首に口付けろと言われているのだ

今、ここで


「…………」


挑まれて引き下がることもできずに、マイクロトフは瞑目した

諦めというよりも、自尊心と葛藤しているような、祈るような、聖職者を堕とした瞬間のような、カミューの嗜好を根本から満足させる姿だった

こんなこととはいえ時間が惜しいと考えを改め、マイクロトフは覚悟を決めたのか、その口元がきゅっと真一文字に引き結ばれた


カミューの笑みは途切れない


意を決してマイクロトフが口先を寄せると、次の瞬間カミューに抱きかかえられるようにしてベッドの上に押し倒された


約束通り最後まではしなかったが、その夜から数日間、サウナで赤青両騎士団長の姿を見かけた者はいなかった

―――そんな、戯れの日常


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2025年05月19日

【カミマイ16】憩いの夜

わが家の洗濯機が突如動かなくなりましたので
買い替えをすることに…!

電化製品の買い替えってほんとに……(大変)……なのですが
耐用年数が10年でそれ以上を超えると必然的というか
良く持った方だという話がもっぱらなので
成人後の人生60年とか想像すると
六回は買い換えなければならない計算になるのかもしれません
洗濯機に限らず、冷蔵庫とかコンロとかレンジとか…なのかなぁ
給湯器も暖房もそうですね…

とはいえ、15年持てば御の字なのかな?…と思いつつ

わが家の愛猫おひめよりも若かった(洗濯機が)、と身内が教えてくれました
うちのおひめには長生きをしてほしいです

★★★

水堂とらくファン作品・空の民草の民シリーズより


幻想水滸伝2【カミマイ】妄想16

カミュー×マイクロトフ

憩いの夜



……できた

完成した、というのは、騎士団長の執務室の改装の話ではない

それはもう大分前にやり終えており、マイクロトフを一瞬呆けさせたのはそんなことではなかった

彼らの団長が座す室内にやって来て青騎士たちの目を輝かせたのは、ロックアックス式サウナがデュナンの同盟軍本拠地に設置し終わったという報告だ

これにはマイクロトフ以下青騎士たちによる盟主への説得というか力説というか働きかけが功を奏して、騎士団が配置された城の一角に大浴場とは言えないけれどそれなりの人数を入れられる施設を作ることに成功した

石と岩とレンガを組んで作った秘密基地のような岩屋に窓と扉がついているだけのような一見簡素な設えだったが、中は結構広い

水風呂は外に設置してあり、そこには屋根があるので一応雨はしのげる

ロックアックス式のサウナは焼いた石を準備してそれに水をかけるだけなので、場所と建物さえあれば簡単に作れた

もちろん熱した石の交換は重労働だが、長時間持つように石材を厳選した

入れば体が温まり、体温調節は水風呂で事足りる

まさに、簡易なリラクゼーションと言っても過言ではない、ロックアックス出身者にとっての憩いの施設の完成は正に朗報だった

今から入れます、との連絡を受けて、マイクロトフはさすがに一番風呂ならぬ一番サウナは労をねぎらう意味で部下たちに先に入るよう勧めた

サウナという言葉を聞いて、マイクロトフの本心は浮き足立ったが、その姿を配下の騎士たちの手前、見せるわけにもいかない

後始末の仕方も知っていたので、自分は最後でいいと断った

疲れている者や夜勤明けの就寝前の者たちが先に入るよう指示を出し、自らは夜に入ろうとそう決めた

そして、思い出したように付け加えた


「完成の報告は、赤騎士団にも伝えてくれ」


マチルダ騎士団が誇るサウナは、騎士団であれば誰もが遠慮なく使っていいし、誰の入浴も歓迎する

ただ、使用や作法、健康面での注意は慣れている者が必ず周知するように、と付け加えて


見張り番を立てる必要はないが、使い方くらいは紙に書いて入口に貼っておいても良いかもしれない

サウナと聞いてからの青騎士団長の血色は、顔の表情と相まって、めちゃめちゃ良い男振りだったので、周りを惚れ惚れとさせたことは言うまでもない




一日の業務と依頼をきっちりと片付けたのち、机の上を綺麗にして、青の団長であるマイクロトフは意気揚々と新設された風呂場へ向かった

さすがに混雑をしていたようだが、夕食の時刻を過ぎてからしばらくすると、ピークは徐々におさまったようだ

脱衣所ではすでに身綺麗になった騎士たちで溢れている

最高の気分転換でしたと晴れやかな顔を見せる面々を見送り、マイクロトフも脱いだ騎士服を手早くたたみ、ブーツを置いて石造りの建物のドアを開けた



居合わせた騎士たちと透明な湯気の中で談笑をしていたマイクロトフが何気なく戸口に目をやったのは、ほんの偶然だった

そろそろ夜も更けた頃に、また一人、足を踏み入れる者があったからだ


「カミュー」


マイクロトフの声には、珍しいなという響きがあった


「おまえの服が脱衣所にあるのを見つけたのでね」


視界に現れたのは、騎士団の中では珍しい肌の色を持った親友の姿だ

さすがに青の長衣は団長職のみ身につけることができる代物だったため、かなり目立っていたようだ

綺麗に畳んだつもりだったのだが、確かに染まった青色の範囲が通常の騎士服よりも断然多いので、見つけやすかったのだろう

あとはブーツのサイズでわかったとカミューに言われ、マイクロトフを含めた一同の首を一様に傾げさせた


男は辺りを見回し、居並ぶ騎士たちの顔を確認した


「周知は受けたが、赤騎士団は私一人のようだね」


カミューはタオルを巻いた腰に優雅に手を当て、軽く嘆息をしたようだ

単に青騎士が作ったと聞いたので、初日に入るのを遠慮しただけかもしれない

そうは思いつつも、マチルダの騎士は青だけではないのだからと思い直したようだ


「明日、私の方からも彼らに伝えておくとしよう」


折角の施設なのだから騎士たち全員が利用した方が賢明だと


「是非そうしてくれ。ここに来れば、自然と会話も広がり、人の輪も広がる」


色の別なく裸の付き合いができるぞと、マイクロトフは笑顔を見せた

カミューはそれにちらりと一瞥を送ると、「おまえはサウナの申し子だよ」と言って肩を竦めた

根っからのサウナ好きはマイクロトフだけに限ったわけではなかったが




「…昔から思っていたことだが」


隣に腰掛けた親友に、すっかり忘れていたとはさすがに言うことはできなかったが、マイクロトフは何気なく声をかけた


「カミューは優男ではないのだな」


着瘦せをするのか、はたまた愛刀が細身だからかどうかはわからないが、男はよくそう評される

背丈はマイクロトフの方がわずかに高いが、騎士たちの中でも彼らは長身の部類に入った

あとは身のこなし方が原因か、と考えながら、改めてカミューの半身をマイクロトフはしげしげと眺めた


入浴中の面々同様、カミューも半裸というか足のふくらはぎまで布で覆われているが、上体のバランスはマイクロトフの目から見ても綺麗なものだ

両肩にもしっかりと肉がつき、胸や鎖骨にも無駄のない筋肉がついている

マイクロトフより若干柔らかそうな肉質だが、元々の地肌がわずかに濃いため異郷の雰囲気が強い

カミューの柔和な印象を与える顔立ちと比較して、かなり男性的だと言えた

マイクロトフは評論家ではないので細かなことは言えないが、立派に雄の体をしている

そんな気がした


男同士だし、見習の寄宿舎生活時代に他のメンバーたちと一緒に風呂に入った経験があるので、マイクロトフには気恥ずかしさというものがない

裸の付き合いは青騎士団では珍しくないものだし、恥じらう方が異常に映る


どういう意味かな?、と憐れむような目線がカミューから投げかけられる

具体的な理由までは念頭になかったので言葉に詰まり、マイクロトフは少し眉を寄せた

けれど思ったことを臆することなく口にした


「カミューは元から肉付きがいいだろう。士官学校時代から、すでに鍛えられていたからな」


当時を回想するに、同年やそれに近い少年たちと比べてもカミューは上背があって目立っていたし、体も完全に仕上がっていた

鍛錬を積んだというよりも、日々の生活で培われてでもいたかのように


その理由は極単純なことだよ、とカミューは言った

苦笑のようなその表情はやはり、マイクロトフを気の毒だと思っているようにも映る


「元々私の実家は裕福と言える家系ではなかったので、幼い頃から働きに出ていた。思いつく理由はそれだけだよ」


年少者といえど、力仕事でなくとも一日中体を動かし家畜の世話や店を手伝うことはできる

特にカミューの故郷ではよほどの名家でなければ大抵の子どもは、体がある程度出来上がれば稼ぎに出ていたと聞く

そこで早くから社会性と自立心が養われ、自然と必要な場所に肉がつき力を養うことができたと

ロックアックス生まれのおまえとは環境が違うのだと言っているようだった

資質という部分もなかったわけではないだろうが、そもそもが違うのだとカミューは言った

おかげで休んでも筋力は衰えないし、今も少ない鍛錬で肉体の維持ができると


マイクロトフは思わず唸ってしまった

羨ましい限りだと言ってしまいたくなったが、働かねばならなかった境遇が半ば慣習化していたという文化の違いを同時に痛感せずにはいられなかったからだ

カミューの故郷の方針と、こちらの生活は違うのだなと改めて思う


「俺は剣を振るのが子どもの頃から趣味だった。だから鍛錬を苦だと思った経験はないが…」


体を動かしているおまえは水を得た魚のようだからね、と男は微笑った

そして腰掛けた椅子の真横から手で顎を下から掬われ、何事かと目線をカミューに向ける

すると、話し込んでいるうちに二人きりになったぞ、と男は周囲に視線を巡らせて示した

マイクロトフは、今度こそ絶句した

用が済んだからというには、人があまりにもきれいにいなくなり過ぎている

話をしていたカミューとマイクロトフ以外、いつの間にかサウナの中は無人と化していた


「大方、私たちに気を利かせてくれたんだろう」


マイクロトフは思わず額を押さえたくなった


「…それは一体、何の冗談だ…」


騎士たちが団長相手に回す気など、仕事の場面だけで十分だ

余計な詮索をされたのであれば、明日弁解をしなければならない

気にするな、と

無茶なことを言っている自覚はありつつも、言わなければ気が済まないと思った


その瞬間、マイクロトフは別のことに思い至った

そういえば、と、カミューに問う

口調には、どこか気遣うような気配があった


「あれから、よく眠れているのか…?」


マイクロトフは、赤騎士団長室で就寝するようになったカミューの様子を尋ねた

寝床が同室だった頃は、どうやら寝付くまで大分難儀をしていたようだ

自分の所為であると決め付けてはいなかったが、もしかするとと思わなくもない

それをカミューに直接問うことは、それこそ男が以前言った野暮というものだろう


カミューに欲されている

そのことはマイクロトフも常に自覚しなければならない

それでもカミューは待っていてくれているのだから


誓わせたのはこちらだ

承諾したのがカミューであっても



おかげさまでね、と友人は答えた

マイクロトフの顎の下にはまだカミューの長い指が触れている

首が疲れると思ったが、じっと男を見つめることをやめる気にはならなかった


測るようなマイクロトフの眼差しに、カミューは苦笑を漏らした

そんな顔で見つめられたら、ただで帰したくなくなってしまうよ、と言って


マイクロトフは意表を突かれたのか、む、とわずかに顔をしかめた

しかし、逃げ出す気はなかった

それ以上のことはできないとわかっているからこその度胸だったのかもしれない

意外とこいつは性格がわるいな、とカミューは本気で思ったが、表には出さなかった


「では、しばらくここに留まろう」


そう言って、マイクロトフはカミューを見た

マイクロトフにとっての就寝の時間はとっくに過ぎていたが、後片付けも残っていることだし、焼き石が冷めるまで待ってもいいと考えたのだろう

何よりもカミューと過ごす時間が大切だと思った



わずかに湿った明るい色の頭が持たれ、マイクロトフの肩に髪が触れる


相手の心の内を占め、また独占しているということがこんなに快いことだとは思わなかった

互いにそれ以上踏み込むことを禁じているからだろうか

カミューは内心で焦れているだろうに、勝手な話だが、満たされる

危うい綱渡りの上にいるというのに、この場に二人しか残されていないことに安堵する


帰したくはないな、とカミューから低い呟きが聞こえる


そうだな、と同意を示すことは余計に相手を苦しめるだけだろうと思った


体の脇に回ったカミューの腕に触れ、マイクロトフは再び窓の外を眺めた



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2025年05月18日

【カミマイ15】暁は遠く

ギリギリ路線を歩む(?)カミマイです

★★★

水堂とらくファン作品・空の民草の民シリーズより


幻想水滸伝2【カミマイ】妄想15

カミュー×マイクロトフ

暁は遠く



溢れる吐息がどちらのものかわからなくなった頃、ようやく体を離され、マイクロトフは深いため息を全身で吐いた

カミューは名残を惜しむようにしばらくその黒い睫毛をじっと見つめた後、マイクロトフから離れ、自身のベッドの上に戻った

ただ口を合わせて互いを耽溺し合っただけなのに、マイクロトフの脳髄は痺れるような陶酔に体の底からわなないている

カミューという毒であり薬である男は、マイクロトフのつぼを確実に抑えて逃がさない

触れれば触れるほど毒が回って、更に手を伸ばしてしまいたくなるほどの危険な熱そのものだった

マイクロトフは決して詩人としての素質があるわけではないが、そんな男もいるのだなと、この親友と関係を深めてからというもの、つくづく実感させられた


「よく眠れそうかい…?」


暗がりの中、くぐもった笑い声が密かに届いて、青年の顔をむっとさせる

カミューといると、最低でも一度は不機嫌な面構えになってしまうのはなぜだろう

相手が常に自分に心地よい敗北感を抱かせるからかもしれない

まったく歓迎できないことではあったが、今となってはそれも普通のことになりつつある

カミューとこうすることが、ごく自然の日常に


ああ、と強く言い捨てて、就寝のためにマイクロトフは目を瞑った


「おまえも早く休め」


意識が落ちる前にそう命じると、努力するよ、と応答が返った

おやすみ、と、いつもの声が聞こえ、マイクロトフから小さく応答が聞こえた瞬間、安らかな呼吸とともに青年の全身がベッドに沈み込んだ


「おやすみ、マイクロトフ」


カミューは声を潜めて謳うように囁いた



やがて完全に親友の意識が闇に飲み込まれた様を確認すると、再び床に降り、カミューはマイクロトフを見下ろした

白い容貌には昔と変わらぬ安らかさがある

同室だった当時も同じようにこのはっきりとした目鼻立ちの親友の寝顔を眺めたような気がする

頬の赤みは減ったが、先ほどまでカミューになぶられ、自らも求めてきた唇の色は変わっていなかったかもしれない

大人びて、確かに大人だが、格段に手に入れ難いものになった

マイクロトフは自分のことをしかと欲したが、体の関係は、少なくともロックアックスに戻るまで深まることはないだろう

それが口惜しくもあり、渇きを思い起こさせる原因になっているが、マイクロトフの考える通り、愛だの恋だのに興じていい状況ではないのだろう

自らであればそれすら飲み干して戦況に臨む気概でいるが、おそらくマイクロトフ自身はこの戦いのもっと先を見ているはずだ

自分自身で所属した組織に疑問を持ち反旗を翻した責任、マチルダ騎士団の本来の在り方、そして改革を、身を賭して実行に移す腹積りでいる

目の奥にある志は、確実に未来を見ている

それを揺るがないものにするには、色恋は邪魔なのだ

マイクロトフは二つを同時に両立、行使できない狭量であるとも言えるし、一方で一途でもあるのだろう

ひとつに専心し、必ず成し遂げるという強い意志は、揺るぎなきものでなくてはならない


それを助ける立場になることはあっても、挫く者になってはならない

カミューが思うほど、マイクロトフの愛は軽くないのだろう

一見穏やかで深く、そして太くどこまでもつながるものなのだ

だから


カミューはふと自身の顔に自嘲が浮かんでいることを自覚した

頭ではわかっていても、腕を伸ばして手に入れたいという欲求が常につきまとい続ける

例えあちらからいくら唇を重ねられようと、見つめられようと、カミューを真の意味では満たせない


私の切り札はおまえが持っている


そうつぶやいて、カミューは部屋を後にした


マイクロトフの隣で全てを忘れて眠るためには、まだ時間がかかりそうだった



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2025年05月17日

【カミマイ14】朴訥が花

朝から食器というかガラス製の重い(…)
計量カップを割ってしまったので
百均で買ってきます…!重くないやつを…!!!!!

ということで、カミマイは続くのでした…!

★★★

水堂とらくファン作品・空の民草の民シリーズより


幻想水滸伝2【カミマイ】妄想14

カミュー×マイクロトフ

朴訥が花



本拠地の増設にマチルダ騎士団の力を借りたいとの要請を受け、マイクロトフは即座に補佐役の一人を呼んで手配に当たるよう指示を出した

元々関所の修理や修繕など、簡易なものであれば自分たちの手でやっていたし、ロックアックスでは専門職を招いて定期的に指南を受けていた

マイクロトフは団長位に就くまでは青騎士の各部隊に籍を置いていたという経緯もあり、その担当になったこともあるので抵抗はない

人手が足りなければ、今でも彼らに遠慮なく手を貸した

元々、体を動かすことが本分のような騎士団だ

土木関係に専門的な見識と腕のある補佐役も数人かかえており、彼らの判断で作業に適した騎士らを選定させ、素早く任に当たらせた

城や拠点の拡張や改築などは、青騎士たちにとっては朝飯前で、警戒に当たる警護や見回りなどよりもひっきりなしに動き続けられるのでむしろ有難いと思う者も少なくなかった

土埃や泥にまみれるのが好きな騎士と言っては少々言い過ぎの感はあるが、マイクロトフ自身も皆と汗する手作業や肉体労働がきらいではなかった



朝の件があったのち、特にそのことに関して誰も忠告も懸念も指摘もしなかったが、団長補佐の一人が当たり障りのないようにマイクロトフの前に進み出て、殊更きつく詰襟を着込んだ上司の許可を得てから思うことを伝えてきた


「団長専用の寝所を我々が空けますので、今夜からそこで休まれては如何ですか」


上下の別なく騎士たちが数人で一部屋に集まり、今でも寝泊まりを続けている

さすがに色の違う騎士団同士が同室になることはなかったが、皆で詰めれば一部屋くらい空けられるとその騎士はマイクロトフに提案した

正式な同盟軍内での会議の出席のみならず、各所での打ち合わせや手配などで忙しく立ち働く団長である青年を気遣って、しかと休眠ができるように計らうという主旨の内容だったが、彼らの本音はマイクロトフの身の安全にあるのだろう

例の赤騎士団長に無体な真似を強いられているのではないかと、大方心配をしてくれているのだろう

プライベートな事柄なので敢えてはっきりとは誰も明言しなかったが、マイクロトフは部下たちに案じられているのだということをすぐさま理解した

しかしそんなことくらいで彼らの懸念材料になってはならないと考え、弁解も謝意もマイクロトフは彼らの前では口にしなかった


「俺は今後、執務室にベッドを運んで寝る。おまえたちは今まで通りを続けてほしい」


正直なところ、マイクロトフは専用の個室などあてがわれても、着替えと就寝以外に私的に利用する目的がそもそもなかった

青騎士団の執務室は、ロックアックス城のものよりも狭い

大勢の青騎士が行き交い、別々の部署の責任者が詰めて話せるような広い会議室もない

入れ替わり立ち替わり騎士たちが入退室を繰り返し、マイクロトフも執務机の前で立ったまま指示を出すことが多かった

就寝場所として適していないことは確かだが、長椅子を運び込むよりはベッドに横になれるだけでも大分ましなのだろう

訪問者からは見えないように仕切りを作り、そこに団長服をかけて休むことができればそれでいい、とマイクロトフは言った

寝入ってしまえば、どうせ朝まで起きないのだから


「…この際、我々の手でこの部屋を拡張してはどうですか?」


建築や建造の心得のある者が多い青騎士らしく、騎士団長室の敷地面積を増やしてはどうかという意見があがる

実際に、自分たちにはそれが可能だ

マチルダ随一の団結力を誇るがゆえに、おそらく驚くほどの短期間でそれを成してしまえるだろう

また、その作業は戦場に出るわけではないので、騎士たちにとっては比較的安全な仕事であるとも言えた


「…俺は構わないが、問題がいくつかある」


ひとつは、青騎士団の執務室だけを拡張してはカミュー以下赤騎士たちに示しがつかない

次に、城の内部を自由にいじって良いのか許可がいる

最後に、安全性はもちろん、予算の確保


後ろの二つは盟主と軍師に直接尋ねることとして、問題は一つ目だ


カミューの許可をもらいに行くことそれ自体は構わないのだが、やはり一方だけの執務室を広くするのは恰好がよろしくない

バランスを取るべきだと、マイクロトフは考えた

無論、騎士団内に不平が出ないことを慮ってだ

そんな些末なことに目くじらを立てる輩は赤騎士の中にはいないよとカミューに諭されるのが落ちだろうが、問題はそこではない

団結を必要とするなら、必要最低限の体裁は整えるべきだ

対外的にも、内面的にも


「では、赤騎士団長の執務室も同じように拡張しましょう」


うむ、とマイクロトフは大様に頷いた


「できれば、赤騎士団の部屋はこちらより豪勢に頼む」


一瞬虚を突かれたようだが、確かに体面上そうした心積もりは必要であるだろうと察し、進言した団長補佐の騎士は、図面に書き起こしてまいりますと断って、知識のある騎士数人を伴い、別の部屋へ移動した

ここがロックアックス城内であれば青騎士団の政務室の一角を借りれば済むのだが、彼らの駐留を許されたこの場所がまだまだ手狭であることは否めない


「もう少し、軍師殿に融通をしていただくか…」


今でも十分、大所帯であるマチルダ騎士団には無心してもらっている気がするが、組織ゆえに割かねばならない経費や、回してもらいたい設備や部屋はある

これ以上わがままを言って、迷惑がかからねば良いが



だが、マイクロトフは完全に失念していた

拡張工事が済むまでは、カミューと寝所を共にしなければならないという現実を



マイクロトフから工事の件を聞かされたカミューは、実直な親友の詰めの甘さに呆れたような苦笑をその頬に滲ませた


マイクロトフがその意味に気づくのに数分の時間を要したことは言うまでもない


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タグ:カミマイ
posted by 水堂とらく@はりこのとら紙老虎 at 07:51 | 日々の更新2025
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